昨今の積雪など

□猫と鯨、もふもふヌイグルミ
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仕事帰りになんとなーく寄った雑貨屋に置いてあったヌイグルミ。

もうこれ買う運命だと思ったんだよ。
だってクジラのヌイグルミだよ!
5000円でちょっと高かったけど速攻レジに持って行き、購入。

家に持ち帰ってソファーに座ってクジラ君(命名)を抱きしめると調度良い柔らかさに顔が綻ぶ。


これ超抱き心地良い…買って良かったー!


ぎゅうぎゅうクジラ君を抱きしめながらソファーに寝転んでいると、リビングのドアが開き鯨さんが帰って来た。



「ただいま。………なんだそれは?」

「おっ帰り〜。何ってクジラ君だよ」

「…………」



冷たい、そして呆れた視線を鯨さんから送られているような気がするが、気のせいだと思い込もう。



「これ超もっふもふなんだ〜。可愛いし。貸してあげようか?」

「…遠慮する」



ずいっと両手で持ったクジラ君を鯨さんに差し出したが押し返された。



「ちぇ〜、クジラ君鯨さんに嫌われちゃったねー」

「嫌っているわけではない。それとそのややこしい呼び名はやめろ」

「え〜、もうこれで定着しちゃったし…気にしない気にしない。お、もう十二時か、眠いから寝るね。おやすみ〜」

「待て……青猫、何故そのヌイグルミを持って行くんだ?」

「一緒に寝るから。この大きさなら抱き枕になるでしょ」

「……そうか」



そう答えた鯨さんが、クジラ君を抱きかかえてドアノブに手を掛けた私に近付いて目の前で立ち止まった。
何か言われるのかと鯨さんを見上げる。

ゴスッ

突然額に走った鈍痛。



「痛ッ!何!?」

「……何でもない」



何でもないことあるかぁ!
人のデコにデコピンかましといてなんでもなくねぇだろ!?
てかゴスッって…!ゴスッて何この鈍い音!?
デコピンの威力じゃねぇよ!
私の額割れてないッスかねぇ!!


私に背を向けて去ってしまった鯨さんの背中を混乱しながら見ていたが、何故か不機嫌オーラが出ている気がして怖いので、文句は言わずに大人しく寝室へ向かった。





*****





先週、青猫が買ってきたクジラのヌイグルミ。
ギュッとヌイグルミを抱きしめながら歩き回る青猫は可愛い。

しかし一日中持っているのは気に入らない。


名前もややこしい。クジラのヌイグルミだから『クジラ君』。
その『クジラ君』を青猫が呼ぶ度に俺が返事をして「違うよ鯨さんじゃない」と返されるなんてことを何度も繰り返した。

子供と呼べる年齢は疾うに過ぎた青猫がヌイグルミに向かって何故話しかけるんだ?
ヌイグルミに向かって何かをぶつぶつ愚痴る青猫からは一種の不気味さを感じる。
そもそも悩みがあるなら俺に話せばいいだろう。


ソファーで寛いでいる時はもちろんのこと、寝る時も、俺が青猫を膝に乗せて抱きしめている時ですら奴は青猫の腕の中に鎮座している。

たかだかヌイグルミごときすぐに飽きると思って今まで耐えていたが、その兆しは全くない。


そして今、俺の腿に頭を乗せて眠っている青猫の腕の中にも奴がいる。

たかが物ごとぎに俺と青猫の時間を邪魔されると思うと殺意が湧いてくる。
眠っている青猫を起こさないように注意しながら『クジラ君』の尻尾を掴んで青猫の腕から引き摺りだす。
目の前に吊り上げて『クジラ君』の無機質な瞳を睨みつける。

青猫の頭の下に素早くクッションを滑り込ませ、起きていないことを確認し、マッチとガソリンとヌイグルミを持って庭へ出た。





+++++




「あれ〜?クジラくーん、何処ー?」

「どうした?」

「鯨さんじゃなくてクジラ君だってば。おーい、クジラくーん…」

「………」

「おかしいな〜?鯨さん、クジラ君何処か知らない?」

「さあな」



テーブルの下やクッションを退かしてヌイグルミを探す青猫を横目で見ながら本のページを捲る。
上がりそうになる口角を押さえながら暫くちょろちょろと動き回る青猫を見ていると、視線に気が付いたのか青猫が凄い勢いで振り返った。



「なんか…今見てなかった?」

「…いや」

「……な〜んか怪しいな〜。ちょっとそこ退いて」



膝をベシベシと叩かれ仕方なくソファーから立ち上がる。



「どうだ?」

「無い…」



軽く笑う俺に疑いの視線を向けてくる青猫の頭をくしゃくしゃと撫でる。

乱れた髪を手櫛で直しながら唇を尖らして俺を見上げる青猫の額を小突いて元の場所に座る。

青猫は暫く俺を睨みつけたが、諦めたように首を振り再びヌイグルミ捜索へと戻った。


室内をいくら探しても無駄だ。


そう思いながら青猫を見ていると、青猫が窓を開けて外に出た。


あいつはこういう時だけ感が鋭いな。
ヌイグルミが見つかるのも時間の問題か。
もうすぐ俺の元に来るであろう青猫の怒りを抑える方法を考えるとしよう。




焼き加減はウェルダンで




流石に外には無いと思うけど〜
ん?なんだこの黒焦げ物体?
あれ?ま、まさかこれってクジラ君!?
うわーッ!クジラ君が焼死体に…!!
ちょっと鯨さん!!

なんだ騒々しい

あんたクジラ君焼殺しやがったな!
酷いよ、気に入ってたのに…!!

何の事かわからない

しらばくれるな!

証拠はあるのか?

な、ないけど…
私が殺ったんじゃないんだから犯人は鯨さんしかいないでしょ!?

暴論だ
ああ、もしかしたら自殺という可能性もある

ヌイグルミが自殺するか!
したとしてもやっぱり犯人は鯨さんじゃん!
『自殺屋』なんだからさあ!

フッ、そうだったな

笑うなー!!





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