黒子のバスケ

□馬鹿みたいに
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「…何してるんです……………二人共…………」

部室のドアを開けると、そこには未知の世界が広がっていた。

正しくは、黒子の常識から著しく外れた行為をしているチームメイトの姿だったのだが、そんなことはこの際どうでもよい。

「何を、しているんですか、と、聞いてるんですけれど…」

なるべく表情を崩さないよう心掛けながら反復すると、長らくくんず解れつの状態のまま膠着していた二人のチームメイトは電光石火の勢いで両側の壁に張り付いた。

やっぱり二人共人並み外れた敏捷性だなあ、羨ましいなあ、と黒子にしては珍しい現実逃避じみたことを考える。

「っち、違う!!違うぞ!?テツ!!今のはだな、こいつが…っ!」

「何言ってんスか!!?今のは明らかに青峰っちが…っ!」

青峰大輝、黄瀬涼太の二人は知りたくもない現状説明をしてくれる。

チームメイトの、しかも男同士の恋愛事情など知りたくもなければ、知ったところでぞっとしない。

大の男が二人、絡み合っている場面など見たくもなかった。

「別に、偏見はありませんが…もう少し場所は選んだ方がいいと思いますよ。部室なんて何時誰が来るかもわからないですし…」

そう告げて早々に場を辞そうとすれば、

「「違う!!!」」

と、わざわざ息の合った所まで見せてくれる。

壁に張り付いたまま睨み合っている二人をちらりと横目で見てから

「末永くお幸せに」

パタン、とドアの閉じる音と同時に小さくそう呟くと、背中に再び

「「違うって!!!!」」

という半狂乱の叫び声が投げつけられた。

二人は転がり出るように部室の外へ出、黒子の姿を探したが、気を遣ってか、はたまたこれ以上見せつけられたら敵わないとでも言うのか、ミスディレクションを発動したのだろう黒子を見つけることはいくら青峰、黄瀬と謂えどできなかった。


翌日―――


登校して早々、クラスも違うのに日々の鍛練によって鍛え上げられた脚力をこんな所でフルに活用し、黒子の元にすっ飛んで来たのは勿論、青峰黄瀬の二方だった。

「テツ!!!」
「黒子っち!!!」

二人が来た途端、教室のそこ此処から様々な種類の悲鳴が上がる。

黄瀬は勿論、青峰も、黄瀬程ではないが人気があるのだ。というより、キセキの黒子を除く全員が人気を博しているのを黒子は知っている。
その中でも黄瀬が断トツではあるのだけれど。

その傍ら、青峰がその性格故、男子からは敬遠されがちなのも。

本人が気にしてないようなのでまあいいのだが…そんなことより今はこの状況だ。

「ちょっと来い!!」
「ちょっと来て!!」

嗚呼…この二人が来なければ今日一日も平和だっただろうに、この二人の無駄に溢れる存在感のせいで僕は今日人の目を意識しなければならないじゃないか……などと詮ないことを当のお二方に引き摺られながら考える。

三人共黙ったままで、青峰と黄瀬はやっぱり睨み合っているし、黒子は諦観したような顔で二人にされるがまま。

暫く黒子が為すがままにされていると、屋上に連れてこられたようだった。

やはり、あまりあけっぴろげにはできないのだろうか…。と黒子が見当違いの心配をしていると、青峰と黄瀬は険しい顔で二人して黒子を振り返る。

「…あの、心配しなくても言い触らしたりしませんし、別に偏見もありませんよ。こういう事は個人の自由ですし、当人同士の問題でしょうから…」

「だからちげえって!!!」「だから違うんスよ!!!」
「?…何がです?」

噛み合っていないことをようやく感知した黒子が眉根を寄せて尋ねれば、待ってましたとばかりに勢いづいた二人の言葉攻めが飛んでくる。

「あれは黒子っちが思ってるようなのじゃないんだってば!!」
「てめえテツ、キモい勘違いしてんじゃねえぞ!!」

「え…でも、じゃあ昨日のは…」

「「だから勘違いだって!!」」

二人の意味不明な気迫に圧倒された黒子は少し後退る。

するとそれを見咎めた二人に再度引っ張られ、何故か矢面に立たされてしまった。そして背の高い二人に挟まれてただ立ち尽くす黒子に迫ってくる。

「あの…?僕の勘違い、っていうのはわかったんで…戻っていいんですよね?」

「待てって」

いかにも信じていません、という風な黒子を逃がすまいと、青峰は鍵を掛けた出入口のドアに黒子の華奢な肩を押し付けてくる。

それに眉を顰めたのは黒子ばかりではなかった。

「青峰くん…?痛いです離して下さい」

「そうっスよ。黒子っちは俺らと違ってか弱いんスからね!」

「てめ、そっちのが失礼だろ」

青峰の言う通り、黄瀬に言われるまでもなく黒子は自分が細すぎることくらい自覚しているのだからわざわざ他人に指摘されたくはない。

その思いを込めて黄瀬を軽く睨んでみれば、

「あ、ごめんっ、ごめんね黒子っち…!」

だが焦ったようにそう謝る黄瀬はやっぱり憎めなくて、つい「得な性格してますね」と溜息交じりに厭味を言ってしまった。

「もういっそのこと今はっきりさせようぜ、黄瀬」
「!!」

目の前でアイコンタクトを交わされても、黒子にはさっぱり何がなんだかわからない。青峰と黄瀬は珍しく真剣な顔をしているが、こういう時こそこの二人はくだらないことを言い出すのだとこれまでの経験から身構えていた黒子だが、黒子のその予想を遥かに凌ぐ阿呆らしさで以って二人は黒子の口を封じた。

「テツ、俺と黄瀬どっちを選ぶ!?」
「黒子っち、俺と青峰っちどっち選ぶんスか!?」

「………………………………………………」

ぐうの音も出ないとはこの事か。実際体感したのは初めての黒子だったが、そんな感慨を噛み締めている暇も現実逃避をする余裕も今はない。

「テツ?」「黒子っち?」

至極真面目な顔をして問い掛けてくる二人の声が遠い。

全くもって―――――…

阿呆らしすぎる。

「ほんっとーーーーーーーー………」

「「?」」

「…に、君達は、阿呆ですね。…」

「ああ?!」「ええ?!」

五月蝿い、と一喝して二人を黙らせ、心底呆れた目で精神的に見下す。

「まず、何故僕が青峰くんと黄瀬くんの二人から選ばなければならないんです?僕にはもう少し選択肢が有ってもいいと思うんですが。僕が二人共を選ばない、とは、考えなかったんですか?」

黒子の言葉に、目の前の身体だけ大きく頭は空っぽらしい二本の独活は『あ』と顔を見合わせる。

それでも青峰はすぐに黒子に向き直って、

「テツは俺を選ぶに決まってんだろ。なあ?」

と根拠の無い自信に満ち溢れた態度で言い放つ。

「いえあの…」

「何言ってんスか!黒子っちは俺を選ぶに決まってんじゃないスか!」

張り合った黄瀬までそんなことを言い出す始末。

二人でギャーギャーと言い争いを始めたのを暫く傍観した後、二人が息を切らして間が空くのを見計らい黒子は口を挟んだ。

「あのすみません…」

とっくにチャイム鳴ってますけど。

そう告げても、白熱した二人にそんなことはどうでもいいのか『わかってる!』と一蹴されてしまった。
だが黒子にとってはどうでもよくなどないのだ。
休んでいても気付かれないことも侭あるのでその面では心配ないが、そういう問題ではない。

「…僕だけでも、戻っていいですか?」

「駄目に決まってんだろ!!!」「当事者が居なくなってどうすんスか!!」

理由と結論をそれぞれ息の合ったタイミングで言われて、やっぱりこの二人がそういう関係なんじゃ…と訝しんだ瞬間、黒子の心を読んだようなタイミングで

「変な事考えてんじゃねえぞ!」「変な事考えないでよ黒子っち!!」

と釘を刺される。

だがこのまま黙って見ているわけにもいかない。

さてどうしたものか。と考え、一つ閃いた。
あまり気は進まないがこの際仕方ない、と一つ溜息をつくと額を突き合わせていがみ合っている二人の間に割って入り、

「いいですか!」

そう精一杯声を張り上げた。が、それでも二人の怒鳴り声の中には波紋一つ落とすことはできず、黒子はこっそり傷ついた。

その間にも二人の言い合いはヒートアップしており、黒子のパートナーは青峰なんだから恋人の座くらい渡してくれたって云々、身体は俺のもんだ云々、いっそ3Pは云々、どんどん下世話なものへと変わっていく。

「…」

バチン!!

我慢も限界の黒子の平手打ちが青峰と黄瀬の頬に炸裂し、鋭い破裂音がこだました。それによってやっと二人の口論は止んだが、後には黒子の凄まじい怒気が漂う。

「テ…テツ?」「く…黒子っち…?」

「いいですか…僕は、黄瀬くんも青峰くんも絶対選びません!!!何故なら、

僕はもう身も心も緑間くんに捧げましたから!!!!!!!!!!!」

爆弾発言。
絶句。
茫然自失。

黒子の予測通り、ものの見事に二人はフリーズ。
その間に黒子はそそくさと屋上から出て行った。

もちろん、本日の部活より青峰黄瀬の両者から目の敵にされるだろう緑間に心の中で謝罪することは忘れなかった。


そしてもちろん、それから暫く…というか、ずっと、緑間が部内で青峰、黄瀬だけではない他のキセキ達からも標的にされ続けていたことは言うまでもない。

あとがき―――――――
駄文失礼致しました…。

黄黒にしようか青黒にしようか書いてる途中迷いっぱなしで…結局どちらにもなりませんでした…。だからと言って緑黒じゃないんですよ。ええ。

黄瀬と青峰が好きすぎる故選べない!ということでございますです…。黒子もきっと同じ心境だったんでしょう!!←明らかに違え…

ではでは、こんなところまで読んで下さってありがとうございました!!
 

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