黒子のバスケ

□足りないアイをください
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「好きにはなれません」


求めていたのはそれとは正反対の言葉だった。


「じゃあ何で付き合ってくれんの?」

「付き合うなんて言ってません。」

「なに、それ?今ありがとうって言っただろ?」

まさか自分が、男を好きになるなんて思ってもいなかったけれど

もっと意外だったのは、

目の前の彼が男からの告白に一_も動じていないことだった。

入学して一ヶ月、つい最近までその存在にすら気付いていなかった程影の薄い彼はしかし、その存在に気付いてしまえば惹かれるのはすぐで、

影は薄いが、だからといって不細工というわけでは決してないし、一度見付ければ目が離せなくなった。隣に居る火神大我というでかい奴のせいで隠れてしまっているが、いつも傍に寄り添うように立つ彼は凜としてどこか目を引く清廉さがあり、何よりどこまでも真っ直ぐで、澄んでいて
見た目のか弱さとは裏腹に強い光を湛えた瞳に魅了され、何か知らない柔らかな感情が沸くのと同時に引き絞られるような痛みに襲われた。

それが、恋だと知ったのはつい数日前。

さすがに自分自身動揺は隠せなかったし自覚した時点で叶うはずもない恋だと理解して辟易した。

しかし、気持ちは変わることなく日に日に増して、
ミルキィブルーの柔らかそうな髪の毛もバスケをやるには華奢すぎるだろう小さな身体もいくら屋内スポーツと雖も女の子より白い透けるような肌も何もかもが恋心を育てる。

火神が何気なく髪を掻き回す度その手が羨ましく、何気なく触れた手や肩に燃えるような負の感情を抱きチリチリと蟀谷を焦がした。

何の下心もなくするだろう行為

そのひとつひとつ、それをするのが自分だったらいいのにと。

何度願ったことだろう。



「…やっぱ、気持ち悪いんだ?ま、当たり前だけど」
「違います。」

何も言わない黒子テツヤという彼に、薄々予想していた答えを感じ取ってやっぱりかという気持ちで諦めに似た言葉を吐く。

しかし覚悟した言葉が彼の口から紡がれることはなく、微かに苛立ちさえも滲んだその瞳に射抜かれて、即答され、覚悟していたにも関わらずやっぱり安堵どころか喜びを感じた。

「気持ち悪いとか、そんなこと言ったら駄目です。人を好きになる気持ちは例え相手が同性でも気持ち悪いことなんて絶対ありません。」

「!……」

臆面もなくそんなことを言う彼に、また愛しさが募った。
そんな彼だからこそ恋をしたのだ。人の気持ちを無下にするようなことは絶対にできない、きっと誰より美しい人だから。

いっそ彼が気持ち悪いとでも言ってくれればこの恋は醒めたのかもしれないが、もしそれを言うような人間であれば恋などしなかった。

「…ごめんなさい、変な事言って。」

「や…え、と…ありがとう……」

「?…でも、ごめんなさい。やっぱり僕はあなたの事を好きだとは思えません。嫌いだと言ってるんじゃないんです、でも…あなたと同じ意味で見る事は、できません」

だからごめんなさい。
丁寧に頭を下げて、何度耳を澄ませて聞いたか知れない自分には向けられることのないその鈴を鳴らしたような穏やかな声音できっぱりと拒絶の言葉を口にした。
容赦ない言葉は心に痛みを齎したけれど、
ある意味ちゃんと割り切れてよかったのだと思う。
曖昧な言葉で人を繋ぎ留めようとするのは人の性だ。けれどそれは、言われる側にとって残酷なものでしかない。

狡い選択だがそれは、人間であるが故の感情と姑息さ。

仕方ないこと。

自分だって、そういうことをしてきたに違いない。
彼のように優しく、常に真っ直ぐでいるなんてできないから。
それ程強くはいられないから。

ほとんどの人がそうだと思う。

彼のように他人に正面からぶつかっていける人のほうが少ないのだから。

そして、そんな彼に恋をした自分に誇りを持てた。

人を見る目があった、と初めてそう思えた。

「…そっか、…ありがと」

「?…え…いや、ボクは…」

「真剣に答えてくれてありがとってこと。」

お礼に戸惑った様子の黒子に、軽く笑ってそう言うと

「…優しいんですね」

思いがけずそんな言葉と柔らかな笑顔が返ってきて。

「!は…?いや、んなことない…と、思…」

思い切り動揺してしまった。

――あまりにも、綺麗に笑うものだから。

「…ごめんなさい」

「え?」

「ボクは、
男性と、付き合ってます」

「――――は…?」


あまりにも、唐突。

何故それを告げてくれる気になったのか、それはわからないが

嘘をつきたくないと、そう思ってくれたのだろうか。

そんな都合のいいことを考えてしまって

「何でそれ、言ったの?」

「…あなたには、言うべきだと思いました」

酷いことなのかもしれないけれど。

「そっ…か、うん、ありがと。それってさ、ちょっとはオレに関心あるって思っていいのかな?」

「関心…というのかは、わかりません。でも、そういう意味で見ることはできない、というのは嘘だと思ったので…」

俯き加減の彼からはただ真摯な思いが伝わってくる。
正直なところショックを受けたし、何でなんだと何に対して誰に対してなのかもわからない苛立ちが沸いたのも事実だ。

男でもいいなら、何故自分じゃ駄目なんだろうと、そんな理不尽な思いも沸いた。

男なら誰でもいいなんて有り得ないというのに、
それでも消せない想い。

「…うん、オレはそういうあんたが好きなんだな、多分。」

嘘がつけない、どこまでも他人に対して正直で、

それ故に

酷薄でもある彼

今まで出会った誰よりも
誠実で、ただひたすらに
前を向いている。

思わずそう告げると目の前の彼はその大きな瞳をパチパチと瞬かせて頭一つ分高い位置を見上げた。

「!」

「一つ、聞いていいか。」

「?はい…」

誰なんだと、

何でそいつだったのかと、

何でオレじゃ駄目なんだと――――

そう言いそうになるのを喉の奥で押し止めて、

「いい奴?」

幸せなのかと聞きたかったけれど、照れが勝って遠回しにそう聞いてみる。
男同士でも、ちゃんと恋愛できるのかと、それが聞きたかった。同性愛という世間からは排斥されるだろう逆境で、それでも幸せになれるのかと。

―――もう二度と、同性に恋する日が来るとは思えないけれど。

それでも聞きたかった。


「――…えぇ、いい人です。…いつも笑ってて、誰からも好かれる人なのにボクみたいなのをずっと好きだって、言ってくれるんです…」

そんな風に、心底嬉しそうに、幸せそうに笑う彼を初めて見た。
こんな顔を見れて正直にうれしいと感じる部分と、こんな顔をさせるどこの誰だかもわからない相手に明確な嫉妬を感じる部分があった。

黒子の事をずっと好きでいる自信はある。
そんなのはきっとそいつだけじゃない。

でも、彼にこんな顔をさせる事ができるのはきっと
そいつだけなのだ。

だから、

「…敵うはずねえか。

……――お幸せに」

出来るだけ悲観的にならないようにおどけてそう言ってみせ、黒子のそれ以上の言葉を聞かないよう踵を返した。

その意思を汲み取ってくれたのか、黒子はそれ以上の言葉を口にせず黙って見送ってくれた。

――ああやっぱり、

これは紛れも無く恋だった。

今更にそんなことを再認識して、散ってしまったそれをまだ捨てきれぬまま
胸の裡に秘め、背中越しにその存在を感じて意識したことのない場所に確かな痛みが走った。
捨て切れない恋の破片がまだ鮮やかな血を流す傷口に入り込み、内側から知らなかった痛みを呼び起こす。じくじくと傷口を抉るそれは、鋭い痛みを齎すものであっても捨てることはできなかった。

失恋なんて陳腐な言葉で現してほしくはない。

失ったなんて嘘だ。


――もとから、手に入ってなどいなかったのだから。


失ったのではなく、

終わっただけ。

恋が、終わった。




ただそれだけだ。




消すことができない密かな想いを抱いたまま、
たった一度だけ振り返って、ぼやけた視界に彼の輪郭を捉えた。


あとがき―――――――
第三者目線て新鮮ですよね。
これはまあ黒子に惚れる奴なんて大量に居るんだよ!!ってことが言いたかっただけの…ね…。
黒子が火神たち以外にはどう見えてるかっていう。
因みに黒子の恋人はもちろん黄瀬ですよ!!!

次は当事者目線で書きたいと思います。
黒子か黄瀬どちらかで。

あと一応失恋くんにも多田礼一郎という名前はありました。出なかったけどね……憐れ………。
名前は適当^^←

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