黒子のバスケ
□未来を知らない僕たちは。
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何もかもがくすんで見えていた時期があった。
自分で選んだはずの道を、後悔しそうになった。確かに帝光の理念は間違っていると思ったし、嫌悪さえ感じていた。
なのに、その場所を失ってから、自分で捨ててから、空虚な思いばかりが胸を占める。
あの場所で、あのやり方で、自分がやっていけたとは思えない。大好きだったはずのバスケを嫌いになるほど、黒子にとってあの場所は、彼らの信用は苦痛だった。
けれど、黒子が捨てたものはそれまで黒子の全てだったもので、それはあまりにも大きすぎて、黒子の中に消えない影を残した。
黒子が嫌だったのは彼らの存在ではなく
ただ、彼らのバスケ。
しかし失ったのは、その両方。
それに気付いた時彼らはもうひとりひとり自分の道を進み始めていて、黒子に為す術はなかった。
そう、たったひとり、黄瀬涼太を除いては。
「また一緒にバスケやろう?」
黒子の通う学校をどのようにして知ったのか、そんなことはどうでもよかった。ただその甘美な誘惑に黒子は、自ら捨てたものを再び望む、その狡さを悪しく思いながらも黄瀬の吐く言葉にいちいち迷いを深めて。
そしてそれは正しく黄瀬自身にも伝わっていたに相違ない。
だからこそ彼は拒みつづける黒子を意にも介さないで黒子に愛を囁きつづけたのだろうと思う。しかし、黒子はそれに、抗いつづけることはできなかった。
だって、黒子は彼らを―――失った光を求めていたから。
紛れも無い"光"である黄瀬涼太という彼を、拒みつづけることなど最初から不可能だったのだ。
そしてまた、黒子が最も渇望していた存在は確かに、かつてのパートナーではなく自分に対して激しい執着を見せる彼だった。
「きせ…っく、あ…っ、や」
「くろこっち、愛してるよ、オレの、くろこっち…」
黒子の体中にキスを落としながら、毎回毎回愛の言葉を囁く。
何度身体を繋げても、彼はいつも後ろめたさすら感じるほど丁寧に、壊れ物のように黒子を抱く。そして終わった後は決まって黒子の顔を眺めて、眠ろうとはしない。
「くろこっちは、酷いっスよね」
そんな独白を何度聞いたか知れない。その時の彼の顔を見ることはできず、声音から想像するしかなかった。
泣いている?
笑っている?
違う―――傷付いた顔を、していた。
笑みを浮かべようとして失敗したような、泣きそうでもある酷い顔だった。黒子の胸の奥に、痛みを齎すような。
それを見た瞬間、自分がどれだけこの人を傷付けていたのかを知って泣きたいのは彼のほうだと思うのに、涙が溢れそうになった。
「…何がですか」
「!…寝てなかったんスね」
一瞬の呆けたような顔を、これ程救いに感じたことはなかった気がする。
しかしそれも直ぐに掻き消えて、黄瀬の顔には微笑みが浮かぶ。
それがまた黒子の内に蟠りを作って、素知らぬふりをして黄瀬に無神経な言葉を投げた。
「ひどい…よ、くろこっち。」
ぱたたっ、と、ついに流れ落ちた涙はあまりにも綺麗で。
黒子は黄瀬に愛を告げることなんてできやしなかった。
自分は紛れもなく黄瀬を想っていて、黄瀬も確かに黒子を想っているのに、
その先の未来があまりにも怖かった。
だから、一度でも心を見せたら箍が外れてしまうことは、とめどない想いは全て彼に伝わってしまうことはわかりきっていたから、身体しか捧げることはできなくて。
「酷いっスよ…でも
―――愛してるんだ」
「…駄目ですよ、不用意に、そんなこと言ったら」
応えることができない変わりに、自分勝手にも、想いが少しでも伝わりますようにと願いながらキスをした。
あとがき――――――――――
私はこれでもハッピーエンド推奨至上主義です。
ていうかそれより相変わらず意味がわかりませんねっ!!
何でふたりが両想いになれないかっていうのは、まあ、くろこっちが黄瀬を好きだからこそです。黄瀬ほど短絡ではないくろこっちは色々思う所があるのです。(半端…