黒子のバスケ

□レンアイウイルス
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「くろこっちが風邪?」

『ああ、お前、どうせ見舞い行くんだろ?一応伝えとこうと思って』

電話越しに聞こえる、愛しい恋人の現・パートナーの声におざなりな礼だけを返して早々に通話を切った。ムカつくことも多いが、こういう時彼の近くに心配してくれる仲間がいるというのは嬉しいことだ。

それでも、自分達が別々の高校へ進学せざるを得なかった理由を考えると、妬みのような感情を抱かずにはいられないのだけど。


*


ピンポーン

黒子の家に着き、何の躊躇いもなくインターフォンを押して僅かな沈黙の後聞こえてきたのは黒子の掠れ声。

『はい、黒子…、…黄瀬くん?』

「うんっお見舞い来たんス。」

『…火神くんですか?』

「そう!教えてくれたんスよ!意外といい奴っスよね!」

インターフォン越しにあからさまなため息が聞こえ、余計なことを…という小さな小さな呟きを電子機器は見事に拾う。

「ヒドッ!心配したんスよ!!」

『え…ああ、すいません…違うんです。ちょっと待っててください、すぐ開けますから。』

その言葉通り、数分も経たない内に鍵の開く音がして、家に上がる。

「大丈夫なんスか?起きてて。」

黄瀬を部屋に上げて、その後寝る気配のない黒子に問うてみると

「お客さん放って寝ていられないでしょう」

そんな答えが返ってきた。
全く以て本末転倒である。

「気にしなくていいスよ!お見舞い来たんスから」

むしろ寝てくれていなければお見舞いとは呼べない気もする。それにこれでは全く、ただ黒子の休養を邪魔しにきただけではないか。せめてそのような事態だけは避けたいという思いから黒子の細い身体を腰掛けたベットに押し倒すと、予想外に熱く火照った身体に驚いた。

「!ちょ…っ、ちゃんと寝てないと!!まだ熱あるじゃないスかっ」

「っ…大丈夫ですよ…もうそんなに…」

忘れていた。彼はこういう人だ。
決して人に弱みを見せまいと、如何なる時でも意地を張って。その頑固さは筋金入りであるだけに、誰も彼が我慢していることに気付けない。

いくら、黄瀬でも。

その証拠に、たった今身体に触れるまで熱はもう大分下がったものだと思ってしまっていた。

「オレのことはいいから。ね?ちゃんと寝て、治して。お願い」

自分自身意識しないうちに、思ったより悲痛な声で、懇願するようなことを言っていた。
でも、彼はこうでもしないと折れてくれない。

「…わかりました」

不満げな声を出しながらも大人しく布団に潜り込んだのに安心して、そこから覗く柔らかなミルキーブルーの髪を撫でた。
わずかな隙間から瞳を向けられ、熱で潤んだそれに不謹慎な感情を抱いてしまう。

「すいません…でも、きせくんといるのに…寝てるなんて、嫌だったんです…」

小さな呟きに、どうしようもなく心を揺さぶられた。

「…大丈夫、くろこっちが寝てもちゃんと側に居るよ。起きるまでついてるから、だからゆっくり休んで。」

横で寄り添って寝てあげたいけれど、彼はうつしてしまうと気にするだろうから。

―――オレ馬鹿だから、風邪なんか引かないよ?

でも、黒子を心配させたくはない。

「おやすみ、くろこっち」

そう囁いて微笑みを向ければ

「おやすみなさい、きせくん…」
彼もまた静かにそう言って微笑み返してくれた。硝子玉のような瞳が、まぶたで隠され、黒子の意識が沈んだのを確認して、火照った額に口づけを落とす。

きゅっ、と黄瀬の制服の裾を握り込んだ手を解くことはしなかった。

「…おやすみ、良い夢見てね。」

汗ばんではいるものの、ごく穏やかな寝顔。
釣られて襲ってきた眠気に、逆らうことなく身を任せて黒子の隣に横たわる。

―――隣から感じる高めの体温が、妙に心地好かった。


(できれば、オレにも出番くれると嬉しいな…―)

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