フィディオ・アルデナ
□あの日から君は…W
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「こちらになります。」
見覚えのある扉を開けると
「エドガー!!」
一目会いたいと思っていたお前がいた。
フィディオはベッドの上で上半身だけ起こしたような格好だった。
そのことに罪悪感がないと言ったら嘘になる。
あの話を聞いた直後だし…。
そもそも、何でフィディオが私を呼んだのか分からない。
「フィディオ…。」
だが、過去のことを知ってしまった私はどういう対応をしたらいいのか分からなかった。
「フィディオ様、私共は…」
「他の人がいない時はけいごははしでしょ、フェリ。」
前にメイドが言ってたな。
[アルデナ家の次期当主様と使えている執事は大変仲が睦まじい]と。
あれは本当だったんだな。
「…そうだね。俺、そこのソファーでシエスタしていい?
積もる話もあるみたいでしょ。」
「じゃあ俺も。
別にお前らの為とかじゃねぇけどな!!」
「くすっ。
じゃあ、おくのベッド使っていいよ。
ぬいだ服はちゃんとたたんでね。
おやすみ。」
「おう。」
「ヴェー!!」
「さて。ほんだいに戻って…。
…おばさまがよけいなこと言っちゃったみたいだね。
でも、気にしないで。
もう…かこの事なんだから…。」
そう言うフィディオの瞳は吹っ切れている様子はなく、言葉とは合っていなかった。
「フィディオ…。」
「あ。そうだ。
これ。
えっと〜、はいっ!!」
そこに握られていたのは小さな植え木鉢と花開きかけのデイジー。
「さっき言ったでしょ?
これ、おみやげ。」
「あ…あぁ。」
「デイジーはね、せんさいだから初めては大きめのはちで育ててあげてね。
そのあとはにわとか、ガーデンにうえてあげると喜んでくれるんだ!!」
フィディオは握られているデイジーを抱えて笑っていた。
「これ、大切に育てれば何年も先でも花を付けてくれるんだって。
だから…
ぼくが帰ってくるまで、大切にしててね。」
え。
シルフィ様によるとフィディオにはまだアメリカ行きの事は言ってないはず…
「ぼく、ディランとマークのところに行くんだよね。
フェリがないしょで教えてくれたんだ。」
あぁ、さっきの…。
「あぁ。
ずいぶんの間、向こうにいるらしいな。」
「うん……。」
いつでも別れというものは寂しいものだ。
その人の事を忘れてしまいそうな気がして、忘れられてそうな気がして…。
「僕、忘れない…から。」
「あぁ…。」
別れは出会いに繋がる。
誰かが言った言葉だが、今なら理解できるだろう。
あの野良猫との別れがあったからこそフィディオに出会えたのだろうか。
「私が…迎えに行く。」
「え。」
だとしたら、この出会いを無駄にしたくない。大切にしたい。
「この先、何があっても忘れない。
いつか私がフィディオの事、迎えに行くから。それまで待っていろ。」
「ぅ………うんッ!!
ぼく、ずっと待ってるから。」
その時のフィディオの目元は少し赤く、水分を含んでいるように見えた。
けれど必死に笑っている姿はとても健気で守ってやりたいと思った。
小さい頃交わした約束。
その約束が果たされるには7年の歳月を費やすのであった。