フィディオ・アルデナ

□あの日から君は…V
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「どうぞ。そちらにお掛けになって。」

「はい。」

フィディオがいる隣で話をするのは煩わしいので、別の部屋に通された。

そこはイギリスとは違い気品と技術を感じるシックながら繊細な部屋だった。


「まずは、フィディオを介抱していただきお礼を申し上げますわ。

さて、私に質問とは…。」

「えぇ、私の手伝いの者に聞いたのですが


あなたとフィディオは実の親子ではないと。」

「それは事実なのですか?」


「えぇ。
そうよ。」

「それは両親が亡くなったから。
引き取ったんですね。」

「……。

バルチナス家のお手伝いさんは情報が豊富なのですね。」

やはりアーサーの言っていたことは事実…か。

「さっきの様子を見る限りフィディオは家族のことに関して触れられるのを恐れているように見受けます。


まさに……」

「拒絶反応。」

「!!
えぇ。
あの反応は異常だと思います。」

驚いた。
こういうデリケートな事は認めたくないものだと思っていたのだかな。


「フィディオはね。
ここに来た頃はもっと感情を出さないで…
まさに人形のようだったのです。」










―――――――






「フィディオ様…
ここ最近何も食べられていませんね。」

「えぇ。」



実際、私の知ってる限りの好物を出してみても見向きもせず




毎日窓の縁に座り外を眺めるだけ。


まるでドールのように。


首ったけだと言っていたカルボナーラもフォークさえ付けない始末。














だが、ある日変化が訪れた。










「…おばさま。
おはよう。」

「フィディオ!!」

それはフィディオがここに来てから初めて話してくれた言葉だった。




それからフィディオが好きだったカルボナーラを食べさせてあげ

一旦部屋に戻って2人で話をした。



「おばさま。
ぼくね、わかったんだ。」

「何?何が分かったの?」

フィディオはいつも見ていた窓の外をぼんやり眺めた。

「おとうさまがしんじゃったのも、
おかあさまがぼくのまえからいなくなっちゃったのも


ぜーんぶぼくがわるいんだよね。」




「え?」



「ぼくがいいこじゃないから
ぼくがアルデナけにふさわしくないから。
おかあさまはぼくをおばさまにあずけたんだよね。」

「……」






言葉が出ませんでした。
フィディオの言っていることは何ひとつ合ってないのに



「かあさまはぼくのことうらんでるんだよね。
だって、おとうさまがしんじゃったとき
おかあさま、いっぱいないてたんだ。

だってぼくは…」



「ゃめ…」










「ウ マ レ テ キ チ ャ イ ケ ナ イ コ 、







イ ラ ナ イ コ ダ カ ラ 。」














「いやぁぁぁぁぁぁああああああ!!!!!」








その時、今でも私は何に恐れていたのかは分かりません。
フィディオの目には悲しみより恐怖を感じました。




小さな子供に感じる事のない狂気さえも感じ、私は完全に怯えきっていたと思います。




「ッ!!
いかがいたしましたか奥様!!」




「!?
フィディオ様!!??」

私の悲鳴を聞いたのか、駆けつけてくれたのは



「しっかりしてください!!
奥様!!」

甘い茶色のくせっ毛、同じ色の目。
代々ロベリタ家に付いてくれる専属の執事、
ロマーノ・ヴァルガス。



「フィディオ様。」

優しくフィディオを抱き締めている彼は
ロマーノの弟にしてフィディオと一緒に先日こちらに来た
フェリシアーノ・ヴァルガス。

2人は優秀だし、今思えば彼らが駆けつけてくれてよかったのかもしれない。





それからフィディオは別室に行く途中で気を失ってしまったらしいです。





「はぁ…は…。」



私はそれどころではなく…。










気を取り戻してからは普通に話しかけてくれたり
ご飯も一緒に食べるようなり日常的には問題はなかったんですか。











「クッ…グァ……あ"ぁー!!」






突然拒絶反応が起こることがあったんです。


「フィディオ…。」

私はただ震えるフィディオを抱きしめてあげることしかできない。











無力でした。








―――――――――――




「でも、この頃は全然起こることはなかったんです。


「だか、私と会ったときから急変したと。」

「えぇ。」




これは…




「率直に申しますわ。
私はあなたはフィディオにとって合わない方だと思うのです。」




完全に嫌われてる。




そりゃそうだろう。
シルフィ様にとってはフィディオは保護するべき対象。
その人に害のある者が近づいたら嫌うに決まっているだろう。


「フィディオは、ミリアが亡くなってから精神的に病んでいたんだと思うわ。
そりゃあこんなに小さな時に両親を亡くして平気でいられる子なんていないもの。

でも、やっぱり精神的にもこんな忙しい街の中だといけないってことになってね、
来週から、アメリカにある別荘で暮らそうと思うのよ。」



何か企んだ目、
そこまで私とフィディオを会わせたくないのか。

「そうですか。
暮らすといっても長居は出来ないのでしょう。」

「いえ、
留守の間は我が家誇る優秀なハウスキーパーがおります故安心できるのですよ。」

「ほう。優秀な…。
それは頼もしいですな。







…そろそろ日も暮れてきましたのでこの辺りで。」

「あら。
もうそんな時間でしたの?

では、玄関まで送らせますわ。





ロマーノ。」




「エドガー様を玄関まで。」

「かしこまりました。」

本当に時間は迫っているが、
家の者に送らせるとは、無理矢理帰す気か。
せめて、一言フィディオに言いたかったな。
あの目からするに随分長い間アメリカにいるつもりみたいだし…。













だが、私ができるのは彼について行くことのみ。
何も話さない前を歩く彼をとても恨めしく思った。




「エドガー様。」

「…なんでしょう。」



ビックリした。
いきなり話しかけてくるんだから。













「ちょっと探検致しましょうか。」











ロマーノは振り替えって口元に指を立て

良い笑顔をしながら悪戯っ子のように言った。
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