イチルキ短編

□素敵なお菓子を君に。
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「おい、一護!」
「何だよルキア、朝っぱらからうるせ・・・って!?」
 勢い良く開けられた押入の方をしかめっ面で向いた一護は、視界に飛び込んできた予想外の光景に思わず声を裏返してしまった。
「て、てててててめぇ!何だよ、それ!」
「何って、魔女だ!見て分からんのか莫迦者!」
「ああ、魔女か・・・ってちげぇよ!俺が聞いてんのは、何でそんな格好してんだって事だよ!」
 普段は露出を嫌ってタンクトップさえ着ないルキアが、肩のざっくり開いた黒いミニ丈のワンピースを着ているのだ。
 て言うか、とんがりコーンみたいな黒帽子をかぶってると思ったら魔女の格好のつもりだったのかよ…
「たわけ!今日ははっぴーはろうぃんの日なのであろう?仮装をすればお菓子が食べられるそうではないか!」
 腕を組んで力説するルキアの様子に、一護はどっと疲れを感じた。何だよ、その微妙に間違った認識は…
 深いため息をついてから、ルキアの方を向き直す。
「・・・いいかルキア」
「うむ?」
「ハロウィンってのはな、アメリカの行事で、日本では特にしねぇんだよ。向こうじゃハロウィンの日に、仮装した子供がお菓子をくれなきゃイタズラするぞって言って回るんだ」
「何故だ?」
「詳しくは覚えてねーけど、確か悪霊とかに子供が連れて行かれるのを防ぐ為じゃなかったか?」
「虚の仕業か?魂葬しに行かねばなるまい」
 死に神らしい目の付け所に、一護は思わず吹き出してしまった。
「お盆みたいな行事だからその必要はねぇだろ」
「そう・・・なのか?」
 腑に落ちない表情のルキアに、一護はもう少し説明を続けた。
「お菓子をもらう方法はな、」
「どうすればいいのだ?」
「お菓子をくれなきゃいたずらするぞ!って言うんだ」
「・・・貴様私をからかっておるのか?」
「日本語にするとそう言う意味になるんだよ。英語で、Trick or treat!」
「鳥…?」
 しまった、コイツの成績の悪さを忘れてた。一つずつ教えていかないと。
「trick」
「とりっく」
「or」
「おーぁ」
「treat」
「とりー」
「それを続けて言ってみろ」
「とりっく、おーぁ、とりー?」
「Happy Halloween!」
 そう言いながら、一護はベッドの下から、お菓子のかごを持ったうさぎのぬいぐるみを取り出す。
 目の前に現れたうさぎに、ルキアの顔は瞬く間に輝いた。
「いいのか、一護!?」
「当たり前だろ、ハロウィンなんだから」
「一護、ありがとう!」
 想像以上に喜んだルキアの様子に、顔がゆるんでくるのが分かった。
 そんな一護の様子に気付かず、ルキアはお菓子を漁っている。
―――俺よりずっと年上のくせに。
 まるで子供のように喜ぶルキアの耳元で、そっと囁く。
「Trick or treat...お菓子をくれなきゃいたずらするぞ?」



 果たして可愛い魔女は、いたずらされたのか、されなかったのか―――…





-fine-
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