ロイリザ短編

□バレンタイン
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―――これは、私が軍に所属した初めての年の話・・・。



「どうしよう、レベッカ!」
「どしたのリザ!?」
 会うなり泣きついてきた私に、親友は目をぱちくりさせる。
「色んな人からチョコ貰ってるの・・・!」
「誰…あぁ、マスタング中佐?」
 頷く代わりにため息で答える。廊下をちょっと歩くだけで女性につかまりチョコを手渡されていた光景が思い出され、更に気が滅入ってくる。
「リザは渡したの?」
「まだ。あんなところ見せられたら、渡せないわ…」
「何言ってんの、昨日頑張って作ったんでしょ?中佐だって、リザからの手作りチョコきっと待ってるわよ」
 レベッカの言葉にうんと言えない。知らない女の人たちからチョコを貰って嬉しそうに笑うマスタングさん。あれだけ貰ってるんだもん、これ以上チョコなんか欲しくないわよね…。
「朝のうちに渡してしまえば良かった。マスタングさん、あんなに人気だったなんて・・・今更渡せっこないわ」
 そう言えば、マスタングさんがお父さんから錬金術を学んでいた頃も、チョコレートを沢山貰って帰ってきてたっけ。何で思い出せなかったんだろう。
「リザは、立て続けに色んな人から紅茶を貰った後、中佐からまた紅茶を貰ったとしたら、嫌?」
「嫌じゃないわ。私紅茶好きだし」
「嬉しいでしょ?」
「・・・うん、まぁ」
「それと一緒よ。中佐もリザからチョコ貰えたら嬉しいのよ」
「でも…」
「いいから渡してきなさい!渡さなかったら絶交するからね」
 レベッカにそう言われ、渋々執務室に引き返す。今はマスタングさん一人のはず。きっとチョコを開けて、食べながら同封されてるラブレターを読んでいるんだわ…
 そんな光景ばかりを想像していたら、あっという間に執務室前に着いてしまった。ドアを開けて中を見るのが怖い。だけど、渡すならもう今しかない。
 しばらく葛藤し、意を決してドアノブに手を掛ける。恐る恐る開けてみると―――…
 手付かずのチョコの山。そわそわと部屋の中を歩き回るマスタングさんの姿。
「・・・マスタングさん?」
 一瞬驚きの表情を見せた後、いつもの表情で答えてくる。
「どうした?」
「チョコ…食べないんですか?」
「あ、ああ。こんなに食べれないから後でみんなで食べようと思ってな」
「そう、なんですか」
 私の中で、淡い希望が、少し膨らむ。
私のチョコ、貰ってくれるかな。
喜んでくれるかな。
嬉しいって、思ってくれるかな。
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