ロイリザ短編

□Grande Valse Brillante
2ページ/3ページ

 ピアノの音色をたどりホールに目をやると、黒いセミロングのドレスを着、肩の下まで伸びた焦げ茶色の髪を左側でまとめた綺麗な女性が演奏していた。その周りで、楽しそうに踊る、男女の姿。
 隣にいるリザに視線を移すと、彼女もホールを見ていた。踊りたいのか、少し哀しげな表情で。
「リザ」
 びく、と少し肩を震わせて彼女は振り返る。思いがけず名前を呼ばれたから驚いたらしい。
「…何ですか?」
 少し呼吸をして答えた彼女の頬は、心なしか紅潮しているように見える。それは私の思いこみなのだろうか。
「沢山食べたな」
「えぇ、そうですね」
 リザはまだ顔が赤い。自分もつられて赤くなりそうである。
 赤ワインを一口呑み、会話を続ける。
「案外記念式典もいいな。美味しい料理を食べ、美人な女性とこうして思う存分会話を楽しめる」
 ますます赤くなったリザが、からかってるんですか?と照れ隠しに抗議する。
「からかってなんかいないさ。ただ・・・」
「…ただ?」
 ロイは、リザにぐっと近付き、耳元で囁く。
「美人と踊れたら、きっともっと楽しくなる…」
 顔を真っ赤にして目を見開いているリザに、もう一押しする。

「私と、踊ってくれないか?」

 彼女の前にすっと手を差し出すと、躊躇いがちに手を取られた。
「あまりうまくありませんが・・・」
「構わないよ、私がリードするから」
 満面の笑みでエスコートするロイに、リザは苦笑しながらも従う。
 人並みをかき分け、ピアノに近い位置で踊り出す。曲は終盤に差し掛かっていたが、彼女と踊れるならばそれは永遠に続くように感じられる。



―――タタタ、ターン



 曲の終わりと共に、彼女の白い綺麗な手に口付けをする。
「上手だったよ、とても」
「マスタングさんのおかげです」
 嬉しそうに笑うリザを見ていると、こちらまで嬉しくなってくる。



「いつまで見せつけるんスか大佐ぁ?」
 恨めしそうなハボックの声に、慌てて離れる二人。その様子にハボックは思いっきり吹き出した。
「もうすぐ会も終わりそうっスよ」
「そうだな…戻ろうか、中尉」
「はい」
「ちょっとぉ!無視せんで下さいよ!」

 慌てて追い掛けるハボックの目線の先には―――――――さり気なく腕を組んだ、仲の良いカップルの姿があった。



-fine-
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ