捧げ物
□ありがとう
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伝えたい言葉があったから。
〈ありがとう〉
「おお!サトシ、久し振りじゃのう!」
「お久し振りです、オーキド博士!」
画面に映るは、懐かしきマサラの風景だ。
目の前に故郷が映ったことで、自然と笑顔が零れるサトシは、何処かうきうきとした雰囲気を纏いながら、疑問を投げ掛ける。
「急に呼び出して、どうしたんですか?」
「実はな、知り合いの科学者から面白い物が届いての、サトシに見せたら喜ぶと思ったんじゃ」
「面白い、もの?」
『ピーカー?』
サトシの肩に乗るピカチュウも、サトシに合わせて首を傾げる。
彼等の様子がおかしかったのか、オーキド博士は喉をくつくつと鳴らし、満足そうな笑みを浮かべた。
「まあまあ、期待して待っておれ!
今、そっちに送るからの」
画面から目を離し、傍にある転送装置を見やって暫くすれば、何やら銀色の物体が姿を現す。
小指の第一関節くらいまでしかないそれを手のひらに乗せれば、金属特有のひやりとした輝きが、滑らかに流れる。
「なんだ、これ……」
「あ!イヤーカフスじゃないの!」
不思議そうにサトシとピカチュウがその金属を眺めていたところ、背後からの声に彼等の意識が切り替わる。
答えを求めるようにサトシはその少女……カスミを振り返り、初めての響きを持つ単語を己の口で繰り返した。
「イヤーカフス……?なんだよ、それ」
「耳に付けるアクセサリーよ」
随分と簡潔に説明してくれたカスミには悪いが、アクセサリーなどと言われても疎いサトシには理解出来ず、
未だにサトシの顔には疑問符が浮かんだままである。
「イヤリングとかと何が違うんだよ」
『ピカー?』
「イヤーカフスはね、こうして……」
カスミはサトシの耳を引っ掴むと、イヤーカフスを耳たぶに被せ、その曲線に沿って滑らせた。
勿論、本人の了解など得てはいない。
「こう、付けるものなの!」
「いててて!な、何するんだよっ!」
カスミの手を振り払い、痛む耳を両の手のひらで包む。
あまりにも強く引っ張られたためか、うっすらと涙を浮かべるサトシは、恨めしげにカスミを睨んだ。