兎文庫

□捨て兎物語
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僕の名前はA。アルファと読む。
僕は黒兎の形のリュックなんだ。
お金持ちの家のお嬢様の持ち物だったんだ。
お嬢様の家は立派な洋館で、お部屋も沢山。
人形だけの部屋…積み木やブロックの部屋…絵本だけの部屋…お嬢様の家には玩具の部屋が沢山あった。玩具も沢山あった。
でも、僕はその中でもとびきりのお気に入り…
だったはずなのに。

ある日目覚めると、何もなくなってた。
誰も居なくなってた。
そして、玩具のみんなも。僕は広い洋館に独りぼっち。
月日は流れて、僕は洋館と共に古びていった。
100年が過ぎたある満月の晩、僕は力を授かった。
自分で生きていく力を。
自分で動けるようになったんだ。
その日の家に僕は旅立つことにした。
僕は振り向いて、洋館に尋ねる。
「君は行かないの?」
洋館は静かに応えた。
「行かない。行きたくても行けないし、行こうとも思わない。」
「「何故?」
「興味が無いからさ。世の中はどこ行っても同じだから。」
「そうか、でも僕はいくよ。」
「そうかい。行ってらっしゃい。気を付けてね。」
「うん、行ってきます。げんきでね。」

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