短編集

□恋のテストバトル! 〜後編〜
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 [ 白石視点 ]

なんだかんだで、あの賭けを取り消ししてもらおうか、と考えた俺だったが、その考えはすぐに捨てた。

――だってその賭け、俺が言いだしっぺやし……。

提案した本人が、その取り消しを求めるなんてそんな格好の悪い事、絶ぇっ対に俺のプライドが許さへん。
こんな時でも堂々としてるのが男や、と自分に言い聞かせて、俺はさっさと部活の準備を始めた。




「あー、ごめん蔵。ちょっと遅れちゃった」

「…ん、綾」

声のした方を振り返ってみると、開けっ放しの部活のドアの所に、息を切らしながら立つ一人の少女の姿が。
長い前髪が、うっすらと汗がにじんだ額にぺたりとくっついていて、あぁ、全力疾走してきたんやなぁ、と一発で俺は理解した。

「そないに急がんでも良かったんに」

そう言って小さく苦笑してみせると、腰に手をあてた綾に、分かってないなぁ、とか言われてしもた。

「だって私、マネージャーでしょ。部活の準備をするのは私の仕事だもん。
 ……てことで部長。その荷物、私が持っていきますから、貸して下さい?」

ほら、と両手を差し出してくる綾を俺は横目でちらりと見る。
綾が貸せと言ってるのはカゴだという事はもちろん分かっとるけど、俺はあえてそれを無視して、棚の上にあった一つのファイルを手に取ってひょいと手渡した。

ぱすっ、と軽い音がする。

案の定、綾が渡されたファイルを、不満丸出しの顔で(しかも微妙に眉間に皺までよせて)見つめる。


「……これだけ?」


不満げな顔で見上げてくる綾の声は顔以上に不満げやった。
そんな綾の頭をぽんぽんと軽く叩きながら、俺は小さく笑った。

「おん。重いのは全部、俺が持ったる。
 自分はそれだけ持っていってくれればええよ」

「…えー……。
 ……せめて、そのカゴ一個だけでも」

そう言って、俺の足元にある大きなカゴを指差す。
その中にはテニスボールがたくさん入っていて、このカゴ一つの重さはけっして軽いものやない。
俺を見上げて、お願い、と手を合わせてくる綾に小さく苦笑して、その頬をぷにっと優しくつねる。

「ダーメーや。
 レディにこないな重いモン、持たせられるわけないやろ?
 その細っそい腕が折れても知らんで?」

そう言って、綾に笑いかけてみると、少しだけ頬を膨らませて、なんか蔵に女の子扱いされるとか馬鹿にされた気分、とか言われてしまった。

俺に男扱いされても機嫌そこねるのに、ほんまに困った姫サンやなぁ……とか言ぅてやろうかとも思ったけど、これ以上拗ねられても困るからやめておく。


「……てか、そんなのを2個も3個も積み上げて、それを今から運ぼうとしてるアンタはいったい何なの?」

「ん?ただのテニス部員やけど?」

「…………あっそ」

「じゃ、持ってきますか」

「……はーい」


俺から荷物を取り返すのを諦めたらしい綾は、ファイルを小脇に挟んで、俺より先に部室のドアに向かってゆく。

なんとなくその後ろ姿を少し眺めてから、3段重ねたカゴを手に、俺は綾のあとを追いかけた。









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