短編集

□恋のテストバトル! 〜前編〜
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それは、部活後、
いつものようにアイツと一緒に帰っていた時の事だった。
テニスの話題の途中、その話を持ち出してきたのだ―――

―――なんの前触れも無く。


「そーいや綾って……、
 ……好きな奴とか、おるん?」

「Σぶっ!?」

……正直、驚きすぎて死ぬかと思った。

その時飲んでいたスポーツドリンクを、盛大に噴き出したような記憶もある。

「そ、そないに驚かんでも……」

「……い、いや、だって……。
 テニス馬鹿のアンタが…………ねぇ?」

「なにが『ねぇ?』やねん、同意を求めんなや。
 ………で、どうなん?おるんか、好きな奴?」

そう言って、彼は手に持っていた真新しいペットボトルに口をつける。
私が今飲んでいたのと、全く同じ種類のやつだ。
こくこくと小さく喉をならす彼を横目で見、私は小さな声でぼそっと答えた。

「……………いるけど」

「Σぶっ!?」

――今度は彼が、盛大に噴き出す番で。

「お、おるん!?」

「い、いるわよ、好きな人ぐらい!!
 てか、なんでアンタが自分で聞いといて、そんなに驚いてるわけ!?」

「い、いや……。
 意外やったなー……と」

「……悪かったわね、ブッサイクな顔で」

「あのなぁ、誰もそないな事言ぅとらんやろ!」

彼が少しむっとした顔で、コツンと私の頭を小突く。

何気、痛い。

「………ねぇ」

「おん?」

「……そういう蔵は、好きな女子とか……いるの?」

「……………………」


少しの沈黙。


ややあって、彼は小さく首を縦にふった。

「まぁ…………な」

「ふぅん…………」

私は、あくまで興味ななさ気にそう呟いた。

そしてそっと口を開く。

「…………誰?」


そう聞いたら、呆れたような顔でこっちを見られてしまった。

「あのなぁ、俺がそうすんなり教えると思うか?
 ……教えてほしかったらな、自分が先に言ぃ、綾。そのあとだったら、教えてやってもええで?」

「……そーゆーのは普通、男が先に言うもんでしょ」

「いやいや、そんなん初めて聞いたで、俺」

……まぁ、私も初めて言ったし聞いたけど。


「とにかく、私は絶対先に言わないから!!」

「じゃあ、俺も教えへん」

「うっ」


これじゃあ、ラチがあかないじゃないか!
私が悔しそうに彼を睨んだら、相手はふふふと不敵の笑みを返してきた。
ちょっとムカつく。


「じゃあ、綾……。こんなんはどうや?」

「こんなのって……どんなのよ?」

私がそっけなく返したら、彼は少しだけくすりと笑い。

「次のテストの合計点が低い方が、先に好きな人を言う……どや?」

……不敵な笑みで、そう提案する彼に向って――

私も不敵な笑みを浮かべて、言葉を返した。

「……へぇ、テストで私と勝負?
 言っておくけど、いままで私はトップ10位以内以外、とったことないわよ?」

「ほぅ、そうだったんか?そしたら俺も同じやで。トップ10位以内にはいつも入っとるからなぁ?」

「ふふ、だったらいい勝負になりそうね?
 ……いいわ、その勝負、受けてあげる」

私は薄く笑って、彼に左こぶしを差し出した。

彼もふふんと笑って、利き手の左手を差し出す。

私も蔵も不敵な笑みを浮かべたまま、口の端をニッと吊り上げた。

こぶしとこぶしがコツンと音を立てる。


       へんで?
『……絶対負け    』
       ないよ?





すべてのはじまりは、そこから―――。










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