短編集
□部活帰り、冬。
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“1℃”
それが今日の気温だった。
カイロを持ち歩いたり、手袋やマフラーをつけていても、完全にこの寒さを防ぐことは出来ない。
冷たすぎる北風が制服のスカートの中にまで入り込み、露出した素足を遠慮なく冷やしてゆく。
もう、寒さや冷たさを通りこして、火傷をしたような痛みまで感じるようになってしまった。
「……もうっ、なんで女子の制服はスカートなん!?寒いったらありゃしないわ!!」
自分の体を抱くように腕をまきつけていた私は、あまりの寒さに思わず愚痴を言ってしまう。
男子はズボンだからええよねー、とため息をついて隣の男子を見上げれば、まぁズボンも寒い事には変わりなけどな、と笑って返された。
「でも、スカートよりはマシやろ?」
「いや、分からんし。俺、スカートはいた事あらへんもん」
「……まあ、そうやろな」
「んー、でもまぁ、ズボンよりは寒いんやろなぁとは思うけど」
「うん、寒いよ。メッサ寒い」
「素足、出てるもんな」
「そーなんよ。もー、靴下太ももまであればええのに」
そう言って、黒い靴下を限界まで引き上げてみる。
そんな私を見て、「その靴下は膝がギリギリやな」と彼が小さく笑った。
「ううぅ〜っ、寒いよ蔵〜っ!!」
彼に助けを求めても、この寒さがどうにもならない事承知で、私は彼の腕にばっと抱きつく。
そしてそのまま、彼の右手にそっと指を絡ませてみた。
彼がすぐに優しく握り返してきてくれた事が嬉しくて、私は小さく微笑む。
そんな私に、彼もふっと頬笑みを返して、そしてそこで何を思ったのか、そっと私を抱き寄せてきた。
「…………っ!?
…く、蔵!?」
びっくりした私が慌てて彼の名前を呼ぶと、蔵は私の耳元に唇を近付けて、温かい吐息と一緒に小さく囁く。
「………な、今俺、綾の体を一発で温める方法、思いついたんやけど」
「え!?
どっ、どんな!?」
「んー……。それはな」
うん、それは?、と私が聞き返そうと口を開く。
――――否、正しく言うと、開こうとした。
……蔵に口をふさがれてそれは叶わなかったけれど。
「…………っん、」
唇同士が小さく音をたてて離れる。
…………恥ずかしくて、蔵の顔を見ることが出来ない。
うつむいて彼から目をそらしていたら、ぽんぽんと頭をなでられた。
「どや?一発で全身温まったやろ?」
得意気でどこか優しい彼の声が、すぐ近くで聞こえる。
「…………馬鹿」
――――こんなの、温かいなんてレベルやない。
私は俯いたまま、蔵の胸に頭を押し付けた。
――――全身が、
熱くて
熱くて、
溶けちゃいそうだよ――――………。
end〜
あとがき