お題作成所
□だから、泣かないで。
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<少年期マシュー>
「ふぇっ…っく…」
私の前に現れる、その子はいつも泣いていた。
片手に白い熊のぬいぐるみを抱いて、もう片手で溢れ出る涙を拭っている。
その子が泣いている理由は、いつだって同じ。
"存在感が薄いせいで、自分の存在に気付いてもらえない、故意ではないが無視される。"
可哀相だった。
私はその子よりも年齢はずっと上で、いわゆる大人ってやつだ…けれど、自分の存在に気付いてもらえないことは悲しすぎる。
それを、こんなに小さな子が涙を流しながらも耐えている。
私は宥めるように未だ泣きじゃくっているその子のフワフワと緩くカールした髪を優しく撫でてやる。
『泣かないで、マシュー』
そう声をかけてやると泣きじゃくるその子――、マシューはこくりと頷いてゴシゴシと服の袖で目頭を擦る。
涙を流すまいと下唇を噛みしめて私の目を見る瞳は優しい色をしていた。
『マシュー、私が傍にいるから…
だから…泣かないで?』
諭すように私はそっと言葉をかけた。
すると、マシューはまた頷いて、嬉しそうに、照れくさそうに微笑んだ。
「傍にいてくれるなら…僕、もう泣かない」
――そう言った君の言葉、今でも覚えてる。