ネウヤコ小説

□究極の謎5
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ヤコ。

我輩はどこかでわかっていた。


『シックス』との戦いは
『謎』を食らうための戦いではない。

『謎』を守るための戦いだ。

故に

この戦いが終わっても我輩は満たされない。


大量の魔力を消費し
大量の体力を消耗し
それでもなにも補給されないこの戦いで

我輩はきっと

死ぬのだろうと。


それでも。


守りたいものがあった。


もちろん、『謎』をだ。

無限の『謎』の可能性。

無限の『進化』の可能性。


世界。

人間。


だがその根源には

ヤコ

貴様がいた。


ヤコ。

貴様の生きる世界を守ろう。

貴様の生きる可能性を守ろう。

貴様の『進化』の未来を守ろう。

貴様を

守ろう。


我輩は貴様を……

守りたい。


誇れ、ヤコ。


魔界でも希少な
強大で聡明な存在の脳噛ネウロの命を賭ける価値が

貴様にはあるのだということを。


ヤコ。

貴様は実に『進化』した。


「わかるな?貴様がⅪを倒すのだ」


貴様は強くなった。


「我輩は…貴様にならそれが出来ると信じている」


いくつもの事件を経て
我輩が弱くなったのを補って余りあるほど…

貴様は強くなった。

それは

Ⅺを超える。

なぜなら

]が『シックス』のもとで遂げた進化より
貴様の進化のほうが純粋だからだ。

]は進化を『させられた』。

しかし貴様は進化を『望んだ』。


その差は貴様が自覚できないほど
強大だ。


貴様はもう
我輩の想像を凌駕した場所にいる。


「出来るな?ヤコ」


我輩は貴様を

信じている。


「やってやろうじゃん!」


そこに怯えはない。

焦りもない。

……ヤコ。

よく

『進化』した。


貴様に
『泣き言』を言ったことがあったな。

急いで
成長するな。と。

急いで
『進化』するな。と。

まだ
もっと

我輩の庇護下にいろ。と。

貴様がどこを見ているのか『不安』になった時があった。

貴様がなにを見ているのか『不安』になったことがあった。

貴様が歩を早める毎に
我輩との距離が広がっていく事が『恐怖』だった。

『進化』は美しいと言いながら。

『進化』は素晴らしいと言いながら。

我輩は『寂し』かった。


閉じこめてしまおうと、思ったこともあった。

どこかへ。

どこか、遠くへ。


貴様が我輩のために『痛む』たび

貴様との距離が縮まる気がした。


だから見せた。

傷を。

だから置いた。

すぐ、そばに。


だがそれも

もう手放そう。


「…よろしい」


ヤコ。

よく

『進化』した。


我輩の命

貴様のために

くれてやる。


「我輩のためによく働いた人間ども」


ヤコ。


「あとは我輩が…」


ヤコ、笑え。


「貴様らの『病気』を治してやる」


…ヤコ。


貴様がいる

それだけで


我輩は立てる。


絶対に力つきることができない一線。


それが

貴様だ。


だから

笑え。


貴様の『笑顔』が『可能性』なら

我輩はなにをしてでもそれを守ろう。


『シックス』。

貴様は我輩に勝てない。


『絶対に』だ。


なぜなら貴様は『生き抜く』つもりであり
それに必要不可欠なものを庇いながら我輩に対峙している。

そして貴様には
侵しがたい『一線』がない。

守るべきものが、ない。


我輩は違う。

我輩はすでに『生存』を計算から排除している。
故に庇う部分も庇う必要もない。

そして我輩には
侵しがたい『一線』がある。

守るべきものがある。

守るべき…ヤコがいる。


そこは
侵せない。

ヤコを。

ヤコの世界を。

ヤコをとりまくすべてのものを。

侵すことは許されない。


限界に近い自分を感じながら
我輩は知る。

ヤコ。

貴様のために我輩は今
立っている。

貴様がいなければ我輩は
もう立ってはいないだろう。

その事実の

なんと

心地よいことだろう。


これはきっと

こう

呼ぶのだ。

『恍惚』と。


「30秒後にまた会おう」


『シックス』。

少し

貴様を憐れに思う。


貴様ほどの強さがあれば
貴様ほどの思いがあれば

どれほど美味な『謎』を生みだせたことだろう。


しかし貴様には

『素材』がなかった。


『謎』は

知性と
悪意と
向上心がなければ

育たない。


それには

『憎む』べきなにかと
『守る』べきなにかが

必要だ。


残念ながら
貴様にはどちらもなかった。

いくら超越した存在であったとしても

『人間』として生まれてきた貴様がそれを得られなかったこと

それを

憐れに思う。


『シックス』。

人間の頂点に立ったつもりだった
もっとも出来そこないの人間よ。

せめて貴様に

最期に

人間らしい


『屈辱』を。




「靴を舐めろ。その全身で」




風音のなか

ひとつの命が消えた音はあまりに小さく
つまらないものだった。

そして我輩は
己の最期を待つ。

下は太平洋のド真ン中。

マッハ2強で墜落まであと3秒。


…ここまでだ。


今の我輩では生き残れない。


魔界と地上を頭脳で生きてきた我輩が
ここまで後先も考えず行動した理由は

そこまでして人間の営みを守ろうとした理由は

人間は我輩の食糧源だから


本当にそれだけの理由だろうか。


ヤコを

あの娘を守ろうとした我輩の心は。

守りたいと思った我輩の心は。


なんという



だったのだろう。


「…考えても意味がない」


目を

閉じる。


「寝るか」





……ヤコ。



貴様は最後のあのとき
笑わなかった。

だが

我輩は貴様の笑顔をこの時
鮮明に思い出すことができた。

ヤコ。

やはり

思う。


HALの最期は

『幸せ』だったのではないかと。


なぜなら今

我輩は

思い出の中の貴様とともにあり


『幸福』

だからだ。


だから我輩は…

『笑う』。


ヤコ。

貴様に出会ったのは
『運命』ではない。

『偶然』でもないかもしれない。


ならば何だといえば
わからない。


ただ

悪く、なかった。


貴様と出会い

過ごし

『生きた』。


悪くない

生き様だった。



我輩は


我輩…は…


(私…ハ…)



満 足 だ


(マン ゾク ダ)







HALの意識と一瞬

シンクロした気がした。


そして…



(…たまえ)


白い


(起きたまえ、ネウロ)


白い、0と1の狭間から
幻聴が聞こえた。


(私を滅ぼした君の頭脳は…)

浮遊感が去り
痛みと重みが戻り始める。

(こんなところで生存を放棄するのか)

白が消え
黒が去り

色と音が

戻ってくる。

(起きたまえ)

戻る。

……戻る。

0ではなく

1でもない

(起きたまえ)

0でも1でも表すことができない

混沌の世界へ。


『ネウロ!!!!』


…ヤコ。

ヤコという

世界へ……!!


(起きたまえ脳細胞の申し子よ……!!)






「意識が戻ったぞ!!」

「おい君、大丈夫か!?」

「衰弱してるぞ、まず輸血を…!!」





遠くで




飛び跳ねている


ヤコ




見つけた。



その姿がいつも通り

陳腐で

滑稽で





我輩は





……………笑った。








Next…

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