ネウヤコ小説

□究極の謎6
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衰弱した我輩は
ただ死を待っていた。

そっと

静かに。


守るべきものは守った。

我輩は安らかなはずだった。


なのに


安らかでは

なかった。


『無念』。


それが

我輩を侵しつづけている。


『無念』。


……なにが
無念なのだ?


『謎』が食えなくなる。


そのことか?


………違う。


我輩という存在が無くなることか?


………違う。


………ヤコ。

ヤコのこれからが
見れないこと。

それ…だ。


これからヤコは成長する。

これからヤコはもっと『進化』する。

美しく笑い

美しく泣き

動き

そして

『生きる』。


その傍らには

誰が立つのだ。


我輩は

死ぬ。


つまりその傍らには

ヤコの

隣には


我輩はいない。


それが………『無念』。


ヤコ。


貴様は我輩の唯一にして絶対。

故に貴様は我輩の傍にいなければならない。


なのに

我輩は

死ぬ。


ヤコ。


我輩は『怖い』のかもしれない。


父親が死んだとき
貴様は抜け殻だった。

だが貴様は様々な人間との出会いで『進化』し

『日常』を
取り戻し

笑うことを思い出した。


ヤコ。

我輩は怖いのかもしれない。


我輩が死んだあと
貴様は抜け殻になるかもしれない。

しかし貴様はこれからも生き続け
様々な人間と出会い

『進化』するだろう。

それは貴様に『日常』を返し

貴様はまた

笑うことができるようになる。


ヤコ。

我輩は怖いのかもしれない。


我輩のいない世界で貴様が笑うことが。


貴様が我輩を
『過去』にすることが。




………死に、たく

…………………ない。




そう

思った。


切に。


………死にたく、ない。

どう、しても。


貴様の
過去になる。

貴様の
『思い出』になる。


………いやだ。


……嫌、だ。



嗚呼。

なんと『生』とは貪欲なのだ。


『シックス』との対戦のとき
死んでもいいと思った。

真実、思った。


なのに今

我輩は死ぬことを嫌がっている。


ヤコ。

貴様の存在。


それだけのために。



そんな中、ゼラが現れた。

我輩を
生かすために。


「ヤコ。我輩は、帰るぞ」


迷いはなかった。

……と、言えたらよかった。


だが我輩は

迷った。


リスクが大きい。


あまりに
大きすぎる。


「一回だけ深呼吸に戻るだけだ」


ヤコ。

それが
貴様との永遠の別離にならない保障は
どこにもなかった。


「その選択のリスクは大きい。魔界と地上は次元も時間軸も異なりすぎるのだ」


だから。


「仮に戻って来れたとして、それは一年後か千年後か、はたまたパラレルの地上やもしれん」


だから、ヤコ。


「再び来れる保障がないのだ」


再び会える保証がないのだ。

……ヤコ。


「これほど素晴らしく混沌として可能性に満ち…」


貴様ほど素晴らしく混沌として可能性に満ち…


「『謎』に満ちた世界に」


我輩を揺さぶる、貴様に。



…………ヤコ。

………………言え。

……言え。


『行かないで』と。


泣いて

すがって

我輩に

懇願しろ。


『行かないで』と。


離れるのは嫌だと。

魂を切る苦痛だと。

生きるより死ぬより苦しい地獄だと。


我輩が

そうであるように。


しかしヤコは

…………『笑』った。


「早く帰れバカ魔人。そんでさっさと戻って来い」


そう
言って。




…………ヤ、コ。



「何余計な心配してんのよ。
自分の体が死にそうな時だってのに」


軽く笑いながら

貴様の瞳が泣いているのに

我輩が気付かないとでも思ったのか。


「わかってるよネウロ」


馬鹿な

人間だ。


桂木、弥子。


「あんたの体は魔界じゃないと生きれなくても、
あんたの脳は地上じゃないと生きられないって」


笑え、と

我輩が望んだときには一度として笑わなかったくせに


「でもね、戻ってきた時人間が変わる事とか
『謎』が減ってるかもしれないとか」




笑うのか。


「そんな心配しなくていいよ」


…笑うのだな。


「人間の世界は変わらない」


…ヤコ。


「変わらない欲望で進化を続けて…未来を作り『謎』を作る」


……ヤコ。


「ネウロと一緒にいて出した答え」


…………ヤコ。


「私も同じ」


その目は

澄んでいた。


汚れなきものだった。


そこで我輩は

はじめて

気付く。


「約束するよ。私ももっと『進化』する」


貴様は


「あんたがどこに帰ってきても…すぐに私を見つけられるぐらい輝くから」


貴様は


「あんたに護ってもらわなくても、もう私は、人間は」


貴様は『進化』を望んだ。


「大丈夫だから」


しかしその進化は


我輩との距離を


縮めるものだったのだな。


我輩は

笑った。


快活に。



………ヤコ。


『偶然』の

奇跡よ。


貴様が進化するたび
我輩は焦燥した。

貴様が進むたび
我輩は孤独だった。

弱者であれ。

庇護下にあれ。


そうして貴様を
我が手にとどめようとした。

そうしなければ

貴様が消えると思っていた。


だが


違った。


貴様は進化を求めた。

なぜか。


我輩とともに『生きる』ためだ。


貴様は我輩と『生きる』ために

歩くために

『進化』を

していたのだな。


「よくぞ『進化』した」


ヤコ。


「もはや貴様をナメクジなどとは呼べんな」


ヤコ。


「『ザ・ナメクジ』と呼んでやる」

「結局最期までその程度!!」


ヤコ。


貴様を庇護しなければならないと

我輩はどこかでそう思っていた。


しかし貴様は

我輩を支え

守り

いつの間にか

我輩を庇護する存在へと『進化』していた。


過去に、なる?


忘れる?


我輩はなんと愚かな心配をしたのだろうか!!


ヤコ。

今の貴様を作り上げたのが我輩であり

今の我輩を作り上げたのが貴様なら


過去などはない。

現在もない。


我々は常に

未来とともに在る。


『生きる』。


「留守は」


戻ろう。

帰ってこれなかったとしても。

可能性を捨ててはならない。


「任せたぞ」


それが

貴様と我輩の『絆』ならば。




「相棒」




「…うん」





…覚えているか、ヤコ。


その日の夜から夜明けまで
ゼラが地上と魔界を繋ぐ門を作るまで

ふたりで

ぽつり
ぽつりと

雑談をして過ごしたな。


会話が途切れたときには
貴様をトラップにかけ

…また
話して

…また
トラップにかけ

そうして
貴様が疲労して眠りについた頃


我輩は魔界に戻った。



……ヤコ。


我輩は貴様の

『じゃあね』も

『またね』も

聞くつもりはないのだ。


ただ

待て。


そして

再会したとき


こう

言えばいい。




『おかえり』



と。





そのとき初めて

我輩は

認めよう。

受け入れよう。


ヤコ。


貴様との出会いは



『偶然』では

なかったのだと。





……………ヤコ。


…………ヤコ。



魔界に戻った我輩は
大きく深呼吸をする。


でももう
わかっている。


我輩の『生きる』場所は

ここではない。


ヤコ。


…ヤコ。


ここには『空気』があり

微々たるが『謎』がある。


しかし

貴様がいない。


それだけで
わかる。


もうここは
我輩の『生きる』世界ではないのだと。


ヤコ。

…ヤコ。


貴様の傍に。


どうか

貴様の傍に。


いつしか

わかっていた。


究極の『謎』。


それを生むのは

きっと

貴様だと。


………探る。


潜る。

漁る。

もがく。


…………ヤコ。


……ヤコ、ヤコ、ヤコ、ヤコ!!!!



そして

見つける。


ある時空の

一コマ。


飛行機の

中。


探して

求めて

どうしようもなかった
我輩の『心』の半分。




「…さあ、目覚めの時間だ」




笑、え。




笑え、ヤコ。




「脳髄の空腹が…この世界を再び求める」



我輩は



「この『謎』は」



貴様に会えて



「我輩の舌の上だ」





『笑い』








止まらないぞ。











Next…

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