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□honey
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「こんな役、やれるかっ」

金切り声をあげ、届けられたばかりの台本を投げ捨ててきたのは今売りだし中の俳優、ティエリア・アーデだ。

その女性と見紛う程の美貌も然ることながら、子役上がりの彼は演技力も高く、高校生とは思えないほどの表現力で人気も急上昇中である。


「まあまあ、落ち着けって」


ニールは台本を顔の前でキャッチし、丁寧にテーブルの上に置く。

腕を組み、怒りを露にふんぞり返るティエリアを見て、ため息が出そうになるのをすんでで飲み込む。

昨年放送された、熱血教師を主人公とした学園ドラマでクラスの優等生役を演じてから人気に火がつき、レギュラーのドラマを三本、映画を一本こなし、あと少しで俳優業が軌道に乗る、というところにまできていた。

彼の才能は枯渇出来ないほど満ち溢れている。

しかし彼は、その演技力に比例してプライドもすこぶる高かった。


「落ち着いてなどいられるかっ。それを見ろ」


マネージャーであるニールに対してこの態度は日常茶飯時、通常である。

社長や他の人々に対する態度は、ニールに対するそれよりはましだが、絶対零度。
冷え込んでいる。

彼がカンカンになる理由は実はニールにはわかっていた。

というか、台本を社長から渡され、初見した時点で予想ができた反応だった。


「大丈夫。お前ならやれるさ」


「ふざけるなっ。それはどう考えても、女役じゃないか」


今回のドラマのオファーが来たときは、社長も大変喜んでいた。

なぜなら、ティエリアを主人公役とした物語だったからだ。

もちろん、ニールも社長の比ではないくらい喜んだ。
ティエリアもこの態度は相変わらずだったが、彼も彼なりに喜んでいるのが窺えた。

だが、そうだ。

この役は、どう考えても女性が演じるのが妥当なように思えるものだった。

いや実際、主人公は女性だ。

女子高に転校し、お嬢様である彼女が隣町の男子高校の落ちぶれ生徒と恋に落ちる、というストーリー。

ベタだが、だからこそのおもしろさが伝わり、作品も高視聴率を何本も叩き出した若手脚本家が書き下ろすとあって、注目度は高かった。


「ティエリア…」


「断固辞退する」


つん、とそっぽを向くティエリアに頭を抱える。

確かに役どころは難しいものだが、これは繊細なティエリアにうってつけの役だとニールは思っていた。

今までティエリアは色んな役を演じ分けてきた。

優等生だったり、気弱ないじめられっ子だったり、と思えばクラスで人気者だったり。

どれもすばらしい評価を受けてきた。

だが、その中でもこの役は異端だ。

繊細で、だが誰よりも逞しいヒロイン。

性格は正反対だが、まるで、彼自身のようだ。

そう、ニールは感じていた。


だからこそ。


「ティエリア」















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