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□Vi-Vi-Vi
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「少し頼みがある」
ニールにとって雲の上の存在とも言えるこのホテルの会長からそう声をかけられたのは、彼のランチを下げている時のことだった。
ニールはスイートルームである最上階の担当だ。
頼まれればいくらそれが無理難題だったとしても、上手く対処していくのがプロのホテルマンであると自負している。
相手が自分の雇い主である会長ともなれば尚更だ。
「なんなりと」
そう言いながら頭を下げる。
ニールにはホテルマンとしてのプライドがあった。
そして勤務9年目としての経験があり、勤務9年目にしてファーストクラスの客が泊まる最上階を任されるだけの実力と素質があった。
だが、会長の『頼み事』はニールの予想の範疇を越えるものだった。
「君の三ヶ月を、私にくれないか」
その言葉に、ニールは一瞬固まる。
これは、どういうことだろうか。
自身が、『いい男』の部類に入るのは自覚もしていたし、実際女性客だけではなく何度か声をかけられたことはある。
だが、まさか。
会長は妻子持ちである訳だが、その手の趣味があるのだろうか。
もうその誘い方がそういうことしか連想できず、いつもは丁重にお断りするところだが、相手は会長であるからして無下に断ることはできない。
だが、「喜んで」というにはいささかニールの常識と世間一般的な意見とプライドとその他諸々が邪魔をする。
ここは怒るべきところなのだろうか。
これは立派なセクシュアル・ハラスメントというか、パワー・ハラスメントのような気がする。
だが三ヶ月とはあまりに長いのではないかと、一瞬のうちに色々な考えが頭を過り、ひきつる笑顔になってしまったという自覚をする前に会長はそれを認めたようで、ニールが言葉を発する前に繕うように言葉を続ける。
「お手伝いとして、ある家に君を是非派遣したいと思ったんだよ」
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