恋は盲目

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「好きだよ」だなんて
「愛してるよ」だなんて
ベタな愛情表現の言葉だけれど、中学生の私にはまだ早すぎたし、早すぎた分軽く感じる
人生たかが15年生きたくらいで大層な事を、なんて
まだまだ精神年齢なんて歳相応でもない中途半端な個体であるにも関わらず
大概の子供はそんな恋愛ごっこが大好きだ



君だけだから



そんな捨て台詞、聞き飽きたよ
全ては記憶の泡の中に混じって消えてしまったと思っていたよ
ウソ、心の奥底でずっとひきずって、…痛い










「ベルくんっ!何処いくの?!」


幸はベルに腕を引っ張られながら歩く
歩くと言ってもベルの歩幅に合わせていたら自然と小走りになった
ベルは一言も話さないし、振り返りもしない
授業のチャイムが鳴ってもお構いなしにどんどん先へと進んでいく
地味に掴まれている手首が痛い
でも気になった、彼の手が震え、汗ばんでいたことが
何度呼びかけても応答がないのでいい加減我慢の限界だった 



「べっ…ベルく…離して!痛ッ…」

「あ、悪ぃっ…」




校舎の外へ上履きのまま出てしまった
現在地は体育館裏
人生初めてサボりというものをした、割と真面目な方であったし
というか今の時期にサボりなんてマジ成績落ちてしまうのでは

元々落ちる程の高さにもいないが
…自分で言って悲しくなった

幸はため息をつくとベルの方を見上げた
瞬間、目がばちっと合い、幸が首を傾げるとベルはばっと逸らした



「な、何よ!そんなあからさまに逸らさなくてもいいじゃない!
 …でも……、さっきは、ありがと」



お礼の言葉を述べた所で、こうなった元々の原因は彼にあるわけだが

…そういえば私昨日この人フったんだ、やばい、きまずい



「礼とかいらねぇーし、…あー…何か俺、格好悪ィ…」

「え?格好悪い?…どうして」


小首を傾げて問えばベルは次第に頬を桃色に染めた
初々しい、とはこのことだろうか

…何だか調子狂う、私も恥ずかしくなってきた

気が進まなさそうな、むっとした顔になりながらベルは言う


「…嫉妬心丸出しじゃん?これじゃさっきの奴とやってる事変わんねーし…
 何か俺だけ空回りしてて、ちょーかっこわり……ししっ」



これだ、彼の独特の笑い方
金髪やティアラより、印象が強かった
はにかんで笑う、…嫌いじゃ、ない



「…私の、何処が好きだと思ったの」



これは、好奇心なんかじゃない
気にしていなかったはずの彼を、実はずっと何処かで意識してた、なんて
そんなんじゃない
ただ、彼を試すんだ
こんな馬鹿けた茶番みたいな
中学生の恋なんて子供っぽくて、本気だなんて言っても結局はすぐに冷めてしまうものなんだって

ベルは一瞬驚いた様なそぶりを見せた
幸がそんな事を聞いてくるなんて思わなかったから
だが即座に答えは出た





「一目惚れだった」





悩むでもなく考えるでもなく、口から自発的に出た言葉

―――…一目…惚れ




「嘘……」

「ほんとだっつの、…ししっ、似あわねぇって思った?
 でもこの二年間でもっと幸の良いところが分かった」


ベルはにやりと笑った
心の中で彼女を想う気持ちが溢れかえる
言葉で言い表すのは難しい、心の中で整理がつかなくて、分かっていても何も言えない

気取らないところとか、感情に流されないところとか、妙に大人びてて綺麗で
なのにドジして可愛く見えて、それでも誰かに頼る事を知らない
強がって、弱い光を放ちながら輝こうと懸命に努力をしてる
他の奴は頑張るんだ、
頑張ると努力するじゃ意味が全然違う
頑張るは自分の限界以上の事をやろうとすること
努力は自分の限界を知り、ギリギリまでその限界にチャレンジしていくこと
幸は誰よりも努力をする子だ
要は周りの奴らより賢明って事

まあ

簡単に言えば、軽いとかありがちとか言われるかもしれなけど
ぜんぶ、…全部が好きだ


「俺や、他の奴にはないもん一杯持ってる、俺は完璧だけど、幸がいればもっと充実すると思った、これ以上に言葉なんていんのか?
 ま、俺がお前の好きなトコなんて挙げたらキリないけど♪」





凄く、嬉しそうに話す
私の事を、そういう風に思っているなんて、本当…


全部が好きだよ














(好きで収まるものでもねーけど)
(本当に、何て…)

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