恋は盲目

□4
1ページ/1ページ




人気のない体育館裏に、幸の低い声が響いた





「…めんどくさ」

「――………は?」



幸は俯いてベルに聞こえるか聞こえないかの声で呟いた
瞬間、ばっと顔を上げる
ベルは目を見開いた



「過去に同じ様な事を言った人がいた
 全部が好きだよって、君だけだよって
 結局は、私の事も、自分自身も…傷つけるだけ傷つけて…」



だからそんな苦しい恋なんて
悲しく切なくなる様な恋なんて
めんどくさくて悪循環な恋なんて

もうしたくないと思った

早すぎても良くない事だって沢山あるし




それにベルくんは地味な私なんかとは何だか全てが違って
陰から羨ましく、憧れる事しか出来なかった



「全てが見えなくなるくらい好きになってしまったら、
 後戻りするのが本当に難しくて大変だから…」



空が青く明るい事が、今以上に憎い事なんてなかった
朝っぱらから、こんな事を真剣に答えてばっかみたい


「なあ、お前にとって恋愛って何」


優しい声だった
…やめて、優しくなんてしないで


「…面倒臭くて悪循環」


止めてよ、そんな事言いたくないのに
涙が溢れて、止まらなくなっちゃうのに
もうこんな苦しい想いなんてしたくなかったのに
自分自身に嘘をつけない自分に嫌気がさす










「じゃあそんなん俺が塗り替えてやる
恋愛っていうのは確かに苦しくて悪循環かもしんねーけど、それ以上に楽しいもんじゃね?
 面倒臭いとは俺は思ったことねーし
お前を好きになった気持ちを面倒臭いなんて、一度も」



時間が、止まった感覚に陥る
暖かい何かに包まれる
ふわ、と良い香りが漂った…ベルくんの香り



「俺と誰かを重ねんな、俺だけ見てりゃいーんだよ
 俺は、お前を…守ってやれるし」


腕に込める力を強くした
少し震えてるのが分かる

抱き締めるだけでこんなに愛しい存在なら

もう離してやらない、そんな想いを感じた
偽りじゃない



もう一度、私、人を好きになってもいいの…?


この時に彼を振り払えば
あんなに苦しくなる事なんてなかったはずなのに
私には、この時の彼を突き放す勇気なんて微塵もなかった
本気なんて、分かってる
遊びなんじゃないって
ただ、恐かっただけだなんて








それからベルくんは、ずっと私の事を抱き締めてくれていた
本当は誰よりも焦ってたベルくんは、まるで子供のように私に必死にしがみ付いて
穏やかで平穏な日常が一変した瞬間だったと思う
関わりたくないと思っていたなんて嘘だった
私なんて私なんて、と自分で相手から遠ざかるように妥協をしてた
でも、これからはそんなのいらないんだ

想っててくれた

恋を自分から遠ざけているような私を




「なあ、幸」

「…何?」

「キスしていい?」

「えっ?!」




何でそんな事を聞くの?!
キスって了承を得てからするものだっけ?!
幸の言いたい事が分かったのかベルは悪戯っぽく笑うと



「だって俺、まだ幸から返事もらってねーし」

「そ…そんなのもう分かってるでしょう…?」

「分かってねーよ、ししっほら返事♪」

「う……」








もう言う事なんてないと思ってたけど








「私も…好き、です」








 
幸の返事に満足したのか、ベルは再び強く抱きしめた
久しぶりに、本物の温もりを感じた









(悲しませたりなんか、しない)
(また、ベタな展開だ…)

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ