蛙王子

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その日から、さちへの態度が変わったフラン
毒舌で、ありとあらゆるところで痛いトコをついてくるけど、それはただの的確な注意であって
さちを傷つける様な事は言わないし、何より優しかった



フラン君は花と雨が好きだ
からっからに晴れてる時はすごくぶすっとしてて、それはそれで可愛いし、
雨が降った時はめったに見せない笑みを浮かべる

一度で良いから、そのビン底眼鏡をとって、フラン君の全部の笑顔を見てみたい
きっと、口元だけでもこんなに優しいんだから、目はもっと優しい

もっと、知りたい
もっと、傍にいたい






フラン君が



好きになってしまったのかもしれない




「でね、昨日お花屋さん行って種買ったら、おまけでコスモスの白いのをくれて!」

「へー、良かったですねー、放課後植えましょうかー」

「うん!きっと綺麗に咲くよ!」

「……そうですねー、さちが育てれば、何だってー」

「?何か言った?」

「いえ、何でもー」




朝は水やりだけで終わってしまうから
放課後が楽しみだ

そんな他愛もない会話をしていつもの様に教室に入れば、
しいん、とほとんどの生徒がいたはずで、さっきは廊下まで笑う声が筒抜けだったのに、一瞬で静かになった


え…?どうしたんだろう?



「ひゅー!!今アツアツのカップル登場――――!!!」


――…え
私は、呆然とした
もちろんフランくんも


「なあなあ卯月、お前フランと付き合ってるんだろ?」


「なっ…何でそんな事っ…!!」


否定、しなくちゃいけないよね
何でそんな事になってるのかなんて知らないし


「だって誰もいない朝の花壇の前でよくお前ら見かけるって」
「今学校中で噂だぜー?」



「ち、違うよ!私とフラン君はただ――…」


さちが弁解をしようとした時だった
教室の扉から離れた窓際にいる女子の集団の中の一人が言った言葉に
さちは固まった


「フランって人の事悪く言ったりして最悪じゃーん?
 卯月サン趣味悪いねー」





沈黙が流れた
その場にいる誰もが、さちに対して、どうなんだどうなんだという目を向けてくる





「……………ちよ……」



「?何て?卯月さあーん」


くすくす、と笑う声が耳に届く
何て、耳触りなの



「最悪なのはどっちよ!!!」





「フラン君は、確かに毒舌だし、たまにグサッとくる事言うけど…でも……本当はすっごく優しくて、
 皆なんか学校中の噂だけに囚われてフラン君を偏見して…本人の事なんて知ろうとしないじゃない……!!最悪なのはどっちよ!!!」



ビリッ
さちの言葉に、誰もが全身を震わせた
さちははっとして、やってしまったという表情を浮かべた
さっきの女子の集団がギロリとこっちを睨んでる



「あ…だか…ら、その「うざいですねー」……フラン君?」



フランはさちの言葉を遮った
皆の視線がフランに注がれる



「卯月とは、何の関係もありませんからー
 こんなウザい女、誰が好きになりますかー?」






ズキン



心の中の何かが、一気に崩れた気がした
フラン君…そんな風に思ってたんだ

何だ…私だけが勘違いしてて、…馬鹿みたい

堪えていた涙が溢れかえってさちの頬に流れた
フランは一瞬こちらを見て口元をぎゅっと結んだかと思った
だが最後に、小さく低い声で告げられた



「消えてください」



痛かった



もうすぐ授業が始まるにも関わらず、さちは教室を飛び出した






勘違い
(私、馬鹿みたいだ)




スレチガイ.

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