蛙王子

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痛い…痛い…
この痛さは、きっと全力で走って疲れてたから

最初は仲良くなりたいだけだったのに
いつの間にか好きになってた


だからショックだった



我に返って辺りを見渡せば、もうそこは学校じゃなくて、どこかの住宅街
人生で初めてサボリというものをしてしまった
何も考えずに飛び出してきちゃって、鞄も持ったままだしそのまま家に帰ってしまおうかと思った


とぼとぼ、と
人気のない道を歩く


ふと、鞄の中に入っている花の種の事を思い出した
放課後植えようって約束したのにな



「…馬鹿……みたい」



呟いた時だった




「本当、さちは馬鹿ですー」




ふわ、温もりを感じた

誰かに…抱きしめられている

一瞬でフラン君だと分かった




「フランく…何で」

「すみませんでしたー…」

「え……えぇ…?」



突然の事に混乱して頭が回らない
先ほど自分の事を突き放した相手に抱きしめられてる
ぎゅっ、もう離さない、そんな気持ちが伝わってくる

その手は震えていたけれど




「ごめんなさい…どうやらミーは、あなたが…さちが、好きになってしまったようですー」



じわ、と
枯れたはずの涙がまた溢れだした

私、嫌われてたんじゃないの…?
フラン君は、私が好き…?

どういう事なのか、全く頭の中で整理出来ていなかったのに、
考えるよりも先に言葉が出た



さちは抱きしめられている腕をぎゅっと掴んだ



「わ、たしも……好きです……」



その言葉を告げると、フランは後ろから抱きしめていた手を離し、さちの身体を自分の方へと強引に向けると
今度は前から抱きしめた


あ……フランくんの匂い、だ


ちょっとしめっぽくて、花の香りもした




「さちは……花の香りがしますねー…とっても優しい香りですー」

「あはっ、フラン君も」

「さち、」



優しく抱きしめられていた腕に急に力が入れられた
少し痛いくらいに



「…?どうしたの?」



何故だろうか
この時、何だか嫌な予感がした
まるで、これがフラン君との最後の様な



「貴方は、ミーの全てを受け入れて、それでも愛してくれますかー?」



愛する、なんて
まだまだ子供な私には大層な言葉で恥ずかしいけれど
何でかな、自信があったよ



「……っはい…!!」



その返事と共に、フランの事を抱きしめる腕の力を強くした
好きだよ、本当に
多分、貴方を見た時から
小さいけど、綺麗な花を持った貴方を見た時から
好きだよ、大好きだよ…


「…良かったですー」


ふわ…と、フラン君は笑った
あ―…初めてだね、フラン君の、全部の笑顔を見たのは

想像してたよりもずっと

優しい笑顔だった






それでも
(私はフラン君を愛します)
【ごめんなさいー…さち…】




アラシノマエノシズケサ.

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