蛙王子
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フラン君が消えた。
行方不明、捜索に当たっても何処を探してもいない。そうやって数日は新聞にまで取り上げられた。しかしどれだけ探しても見つからない。さちも必死で探した、走って走って、沢山探した。でもどこにもいない、フラン君は…どこにもいない。世間から段々存在が薄らいでいく彼は、もう。
そうだ、これは夢なんだ。こんなの現実じゃないもの。だって誰も本当の事を話したって信じちゃくれない。頭がおかしいんじゃないかって、そんなおとぎ話みたいな。私もそう思うから、うん、これはきっと…
「嫌…だ……」
フラン君の小さな花の前で、震えた声で呟いた。どうしてなの。
ほんの数日だった。でもそんな短い間であっても、フラン君と過ごした時はとても大切で。夢だったなんて、そんなの。最初の好奇心なんて捨てていればこんな事にはならなかった?ぽろ、涙が溢れて。
「おー、さちーっ」
「ひゃあっ!!」
突然誰かが後ろから抱きついてきた。誰か、なんて分かってる、この声は。
「ベルッ…嫌!!」
ばっ、振り払おうとする前にベルの方から身を引いたのでバランスを崩して前方へと思い切り倒れてしまった。その時に、ぐしゃりと柔らかい何かが手の下をくすぐった、まさか。
「フラン君の花…!!やだっ」
手の体温であっという間にしおれて、体重がかかったせいで簡単に曲がってしまった。ああ何て弱々しいの、まるで…
「その花カエルのだったの?ししっ、アイツらしいな、よっえーし」
聞き捨て、ならない。
さちはベルの方へとばっと振り返り睨んだ。こんな奴が王子でフラン君がカエル?この花の様に弱い?誰が、フラン君が?そんなの貴方が言えることじゃない、フラン君がカエルなら貴方は王子でも何者でもない。ただの偽り。堕王子なんだから。
そう言い返そうとした。でも目の前に広がる光景を見て、そんな気さえ起らなくなる。
「ねーえ!今日は何処遊びに行くのお?」
「カラオケいこっベルう!」
「いっぱい遊ぼうよお!そんなダサい女じゃなくってさ」
「わーりわり、コイツおもしれーから、からかいたくなってさー」
なんて、可愛い人や美人に囲まれてでれでれしちゃって…呆れて言葉も出ない。認めない、これが夢なんて、ベルなんて、絶対。
見つけてみせる、私が誰よりも早く。
ちょうど持っていた翠色のリボンで曲がったフラン君との大切な花を結んで立て直すと、ダッとその場から駆けだした。
その小さな後ろ姿をベルはじっと見つめていた。
小さく弱々しく
(それはまるで)
(私のよう)
ケツイ.