蛙王子

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あれから何日経っただろうか。一カ月…だろうか。いや、実際は一週間も経ってない。こんな短い間でも、彼がいないだけでこんなに苦しい。もっと簡単に諦めがつくと思っていた。所詮中学生の恋じゃないか。なんて、そんな事も考えられないくらい私はフラン君が好きなんだ。
だから諦めない、好きだから。それが理由じゃ駄目でしょうか。駄目でも私は探しますが。誰に言うわけでもなく、ただ一人で空を見ながら想った、彼を。

ちら、と。元はフラン君が座っていた席に座る人物を睨むように見た。フラン君がいなくなった次の日だ。まるで転校生気取り。何て腹立たしいの。そこは貴方が座る席じゃないのに。何て…。ぎゅ、と胸が締め付けられるようだ、苦しい。どうしてこうなったの。
無駄な一日が過ぎていく。一秒でも長く一緒にいたいと思った人に出会ったのに。

あっという間に放課後になった。クラスメイトが皆帰った教室で、さちは窓側を向いて机に頬をついていた。夕焼けの空だ、おれんじ色。今日も私は一体どこへ行くのだろう。あてもなくふらふら歩いて、また探すのだろうか。もう…


「いや…だ…」


会いたい。やっと分かり合えたんだよ。やっと両想いになれたんだよ。




「いつまでメソメソ泣いてんだよ」




まただ。振り向かなくても分かる、嫌でも。



「ほうっておいてよ」



低く、暗い声で。貴方の顔なんて見たくない。
きっとこの金髪堕王子は何か知っているんだろうけど、知りたくない。こんな最低な奴なんかに教えてもらいたくなんて。フラン君が消えたって知ってるのに、毎日毎日こりずに女の子とずっと遊んでて。どうして私なんかに構うの、自由になりたかったんじゃないの。



「女の子と遊ぶので忙しいんでしょう、行けば」

「ししっ、つっめてー。案外つまんなくてさあー」

「あんたみたいな奴につまんないなんて言われた女の子、可哀想」

「…んだと?」



ぴり、その場の空気が変わった気がした。すぐさま顔を上げてベルを睨んだ。さちの目には夕焼け色に染まったベルの姿が映った。フラン君に負けない位格好いいのは分かったよ、だからもう消えてほしい。



「………かよ……」

「…は?」



ベルがさちに向かって何かを呟いた。生憎小さすぎて聞こえなかったのだけれど。
別に聞きなおす必要もない。そう思って何も言わずに鞄だけ持ってその場を去ろうとベルの横を通り過ぎようとした時だ。ガタンッ。


「ひゃっ!何よ!」


押し倒された。机と机の間に二人の影。教室の床って汚いのに…。ただそんな事を考えている余裕はなかった。



「そんなにカエルが好きかよ!!」



振り絞るような。声を張り上げてベルは言った。さちは驚きのあまり目を瞬かせる。ぐっと腕を押さえつけられて、足の上に乗られているから抵抗も何も出来なくて。ただ見た。ベルの苦しげな表情を。



「俺だって、好きでこんな事してるんじゃねえよ」




振り絞るように
(ベルの瞳は濁っていた)



クルシミ.

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