蛙王子

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前髪が長くて見たことの無かった彼の目は、ひどく濁っていた。まあ、元々見ようともしていなかったのだけれど。


「な…によ」


だいたい全部が唐突すぎるの。フラン君と想いが通じあえたと思ったら彼は消えて、その代わりベルがいきなり現れていきなりキスされて、そんな表情をされたって。


「俺はずっと外の世界にあこがれてた。出たくて出たくて、毎晩のように暴れてはフランを苦しめてた。でもアイツは喚くも泣くもしないで耐えてた。それがムカついた。だからカエル…フランと約束させたんだ」


人を好きになんてなるなって。

俺の中で人間の人生で一番重要なのは生涯誰と一緒にいるかを決める事だと思う。でもフランは女と一緒にいるどころか人間自体が嫌いらしい。だったらここで一つ賭けをしよう。フラン、もしお前が人を本気で好きにならないで、キスなんてものもしないで生きていられたら、俺はもう暴れない。永遠にお前の中で大人しく眠っていてやるよ。

って。



「いつかはそんなの無理になるって思った。でもアイツは意地でも俺を外に出そうとしなかった。それ以前に女だけじゃなく人から自分を遠ざけるように、あんなだっせー眼鏡までして」


まじ馬っ鹿じゃねーの…


私の上で濁った涙を流すベルはとても弱々しかった。どうして貴方が泣くの?最初から意味が分からないのよ、フラン君も。貴方も。それはまるで何かに威圧されたように飲み込まれた言葉だったが。


貴方は、ミーの…


「…!」


瞬間、さちは体に稲妻が走ったような感覚に囚われた。
そう、そうだよ。どうして忘れていたの。だって、約束したじゃない。
す…、と私の上に跨がるようにいるベルの頬に手を置いた。ぴく、ベルは小さく肩を震わせた。


「私、約束してたんだった」


ふわりと微笑んだ。
ベルの涙で溢れた目は確かにそれを見た。ああ、こんな優しい表情を見た事が果たして俺にあっただろうかと。


「フラン君の全てを受け入れるって。そうした上で愛するって。だから貴方が、ベルがフラン君だと言うなら、私はベルの全てを受け入れて愛する。そう、それだけの事だったの」


優しく、彼の唇にキスを落とした。
そう、彼は…ベルという人だけれど、フランという意識が全て彼の一部でもある。だったらその全てを愛そう。約束を守ろう。私、フラン君が本当に愛しいの。だからベルも愛しい。それをフラン君が望んでいるのかは分からないけれど、私に事情を話もしないでこういう事になったと言う事はあながち間違ってはいないのではないか。ああ深く思案したって何も変わらないじゃないか。もうお互い、疲れたでしょう。



だったら愛そう




ヤクソク.

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