蛙王子

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辺りは闇に包まれた。二人はただ黙りこんで、じっとお互いに背を向けて教室の真ん中に座っていた。どちらも動こうとしないで、話そうともしないで。何も考えていないのに。とても可笑しな光景だろうとは思った。本当、おかしい。黒板の上に掛けられた時計の針がグルグルと回るのだけ見える。
そのまま長い針が何回まわっただろうか。もう気にしてなどいなかったけれど。いつまでも続く沈黙を破ったのは、ベルだ。


「さち」

「…なに」

「俺、お前が好きだった」

「…は……、だった、なんだ」


そう苦笑すれば、ベルは否定するでも肯定するでもなく、語り始める。その姿はまだ弱々しいままだね。私と変わらない。え?…決意したはずなのに。どうして。


「……あの約束をした後、フランの中で俺はずっと蹲ってた」


そしていつしかアイツはお前という存在を意識し始めた。それも、さちがアイツに話しかける以前から、ずっとだ。好きだと肯定していなかっただけだったんだ。アイツも俺と同じでいじっぱりだから。認めてしまったら、俺を自由にしてしまうから。…知りてーだろ?アイツが俺を外に出したくなかった理由。それはな。アイツは嫌だったんだ。俺という存在を認める事でさえ。自分がおかしいって、狂ってる奴だって思って、否定しなかった。そうすれば周りの奴らはどんどん離れて、俺という存在も薄らいでいくから。
何だろう。ドクン、ドクン、心臓が激しく脈打つのを感じて。そこまで聞いて、さちはその場を駆けだす。ずっと座ったままだったから足が痺れて頭がぐらぐらしてよろめく。でも走るのは止めない。
どうしてこんなに胸が張り裂けそうなの。ごめん…ごめん。私



「さち!!」



今度は学校中に響くのではないかと思うくらいの大声で。ピタリ、さちは動かなくなった、いや動けなくなった。


「止めてよ!言ったじゃない!私はフラン君の全てを受け入れるの!だからベルを好きになる!」


ベルを好きになる。…好きになる?そんな、…。上辺だけの言葉なんて。
止めてよ、せっかく決めたことなのに。どうして。ぎゅ、と唇をかみしめた。


「好きだったんだ!俺も!!アイツの中にいたって意識はあったから!フランを通じてお前がずっと!」


他の奴と違うって。でも…でも、お前は、カエルが好きだから…。俺も…お前はカエルに愛されるべきだと思ったから。俺は好きじゃいけないんだ。だから女遊びなんて面倒せー事、でもフランは俺の中で、もう暴れようともしない。追い出そうと思えば追い出せるはずなんだ。俺はそうなる事を予想してたんだ、なのに…馬鹿なんだ、カエルは。………好きだった…だけなんだ、だから外に出たいともっと思うようになっただけなんだ。さちは何も悪くない。

何を言えばいいのか分からなくて、区切りくぎりの言葉しか出ない。伝えたいことは沢山あるはずなのに、お互いギクシャクして格好悪い。伝えられないよ…。


「何よ…だって。そんな事言ったって…」


嫌だ、認めたくなんてない。だって認めてしまったら、私は最低な人間になる。
気付いた時にはもうすでに温かい何かに包まれていた。全然違うね。可笑しいよ、もう全部が。だって



「ごめん……、駄目なんだ。……好きなんだッ…!」


ベルは私を抱きしめる。そんなに必死にならなくたって。
…私はフラン君が好きなはずなのに。


「わ…たしは」


フラン君が好きなはずなのに。
でもだからってベルを否定しちゃいけない。じゃなきゃフラン君との約束を守れない。ああもう何よ!!


「ベルが本当に好きだって、思っちゃうじゃない!」



分からないよ。



何が正しいのか
(お願い、誰か)
(教えてよ)


ムジュン.

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