蛙王子

□□
1ページ/1ページ



何が起こったのだろう。でもこの感覚。前と同じだ。そう、フラン君が消えたあの時と。だからこれは…。そういう事なのだろうか。


「……フラン、くー…」


名前を呼ぶ前に、もう抱きしめられていた。ずっと、もう何十年も会っていなかった、まるで恋人のように。…いや、実際もう恋仲なのだろうけれど。
綺麗な翠を、凄く久しぶりに見た。ずっと焦がれていた。会いたかった…!


「さち――ッ…!」


もうすでに授業の始まってしまった静かな校舎の前で。痛いくらい、苦しいくらい抱きしめられて。久しぶりに彼の香りを感じた。懐かしい。嬉しい。嬉しいよ!


「フラン君ッフラン君ッ―…!!」


でも。どうしてだろう。会えてうれしいはずなのに。こんなにもどきどきしているのに。どうして。どうしてこんなにも、苦しく感じるのだろうか。
自分をすがりつくように抱きしめるさち。でも彼女の震える体に、何かを感じた。ああ、分かってますよー。分かっているからミーは。


「信じていましたーさちは、ミーの 全て を受け入れてくれるってー」


あの孤独な王子でさえ、受け入れてくれるって。ポソリ、フランは呟いた。小さすぎてさちには聞こえていなかったようだが。
蛙は王子の存在を否定していたわけじゃない。王子が蛙の中に存在する事を否定していたのだ。何が違うかなんてそんなの。お伽話の中では蛙と王子は同じ人物だったけれど。その蛙の姿は確かにこの世界に存在していた姿であって。それが消える事で王子になるなんて。そんな蛙にとって理不尽な事。だから、少女に何も告げずに消えた。それだけの事だった。


「ミーは許せなかっただけですよー」


にこり、と。フラン君は笑った。その意味はよく分からなかったけど、何かしらの自信に溢れているような瞳。その視線の先に。


「なーんだっ!俺もこっちに残れんのかよ!」


――っ?何?
振り返れば。



「……よっ、さち」

「ベ…ル……?なんで」

「しらね…っておい!何で泣いてんだよ!」


ぽろぽろと頬に流れ落ちるのは涙。フラン君に会えたのは嬉しかった。でも、そのかわりに。またベルが消えてしまったのだとばかり。フラン君を見れば、先ほどと変わらない笑みを浮かべている。分かっていたの?


「ふえ…よかっ…」


こんな私は凄くズルイ。そんなの分かってる。でも、二人とも大好きなんだ。



「じゃあ何も我慢する必要ねーって事だよな!」

「え?」

「聞き捨てなりませんー。絶対さちは渡しませんよ堕王子ー」

「ええ?」


バチバチ。火花の間に挟まれるさち。え、ええと。これは一体全体どういう事なのか誰かに説明して頂きたい。


「誰が堕王子だ誰が。俺だってさち愛してるし」

「え…えええ…?」



私は姫ではなかったけれど。

蛙と王子…どっちも本物の貴方のようでした。


王子
(何言ってんですか、さちはミーが好きなんですー)
(まだ可能性あるっつの、な!さち!)
(ちょっ、何言ってるのよ!わ、私は―――…が好きでっ…)



end.

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ