100のお題(1-40)
□007 陽の光に妬かれる
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「どうしても、会いたくなった。お前が恋しくて、たまらなくなった」
照れもせずに、坂田はそう言った。
それは江戸で桜の開花が告げられた日だった。春の匂いを纏った風が銀色の髪を揺らし、伸びやかな太陽光がその影を畳に映していた。
暖かさに心を許していたせいで、小言の一つも出てこなかった。不法侵入だ、と、ふやけた頭の片隅で呟いただけ。
抱き締められても、何も言えなかった。
言葉にするのも、恥ずかしかったのだ。
俺も…、
その続きは、考えないようにして、ただ温かな背中に手を回した。
そのうちに唇は封じられ、何を言う必要もなくなった。
瞼を通して目に写る光は、優しい色をしていた。そのくせ鮮烈な光を放っているから、焼きついて離れなかった。
「大好きだ、土方。愛してる」
惜しみなく与えられる愛の言葉を、俺はただただ黙って受ける。
抱き合う体は熱を帯びて、溶けてしまうような気さえした。
春の光に、溶かされる。
それも、悪くない。
「俺も」
たった一言で全て伝わる。こんな贅沢は、太陽に嫉妬されたって仕方がないのだ。
終
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