高校生2
□strike
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これは、拉致なんじゃないかと思う。
いや、たしかに俺は自分の足で家を出てこの車に乗った。凶器を突き付けられていたわけでもない。
でもあの誘い方はほとんど脅しだったし、やっぱりこの状況は拉致なんだろう。
あー、俺はせっかくの休みになにをやっているのか。グラサンかけたおっさんと二人でドライブとか、笑えない。つーか眠い。朝四時出発とか、これむしろ夜だろ。
「それで栗子が連れてきた男がどォーしようもねェ奴でよー」
「へー……、父親に似た男を好きになるってマジだっ、いってェ!」
「認めねェ、絶対に認めねェよ、お父さんは」
「わーったよ!冗談だから、離せ!両手で運転しろ!」
「ったく……、おめェもいつか分かんだよ、この父親の切ない気持ちってやつが」
俺の髪を掴んでいた左手をハンドルに戻し、松平はしみじみと呟いた。
「そんな日、こねーよ……」
こないっつーか、いらないっつーか、無理だ。憎しみの対象でしかない存在に自分がなるなんて、想像もしたくない。女の子を片っ端から好きになっていた時も、家庭を持つなんてことは考えもしなかった。その上、今は男に絶賛片想い中ときている。叶う見込みがないのに止められそうにない、お先真っ暗な恋だ。
ガラス窓の外はまだほとんど夜で、街灯の光だけがぽつりぽつりと光っていた。その灯りが届かない範囲は闇に包まれ、何があるのか分からない。
「着いたぞ」
車はゆるく左に曲がりながら、速度を落とした。