□地獄の沙汰も彼次第
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いくつになっても男ってやつァ仕方のない生き物なのです。

そんなことをもそっと呟いてみたら、強烈な頭突きをくらった。

痛ぇっ!予想外の痛み来ちゃったよ!?つーかこれ、やる方も痛いんじゃないのか?

攻撃の方法としては非常に動物的な、あるいは旧人類的な部類入ると思う。他に殴るでも蹴るでもあったろうに。
でも、お前はサイか?原始人ですか?なんて言ったら余計に痛い目見るのはわかっていたから、大人しく頭を抱えてうずくまった。

「え?あれ?土方くん??」

次の攻撃なり口撃なりを予想していた俺は、彼が何もしてこないのを訝しんで恐る恐る顔をあげる。見上げたそこにあった表情がこれまた予想外で、俺は大いに慌てる羽目になった。

なんかもう、めちゃくちゃ悲しそうな顔なんですけども。

「えぇと、どうしたの?」

怒り心頭って様子かと思ったのに、土方くんの整った顔は泣く一歩手前って感じに歪んでいる。

参ったな、参りましたよこれは。いつもなら罵詈雑言の嵐になるはずなんだけど、なんか無言で俺を見下ろしてるだけだし。どうしたら良いのかさっぱりわからない。

「土方くん…?」

立ち上がって手を取ろうとしたら、思いっきり振り払われてしまった。唖然とする俺に背を向けて、土方くんは足早に立ち去って行く。

なになにこの展開、思考も体も完全に置いてかれてる。

「待って、待ってって」

慌てて後を追うと、早足に歩いていた土方くんが走り出して、もちろん俺も逃すわけにはいかないから走って、遂に完全な追いかけっこ状態になった。

ていうか土方くん走るの早すぎ。

最近調子に乗ってパフェばっか食べてたからか(土方くんの奢りで)体が重い。

医者にこんなこと話したらキレられるんだろうなァ、体壊すのは俺なのに怒られるってなんか二重に損じゃね?それにしてもなんでこんなことになっているんだろうか。

「ひ、じか…た…くん…!」

やっとのことでバテてたところに追いついて(土方くんがヘビースモーカーで良かった)、隣にへたり込んだ。喉から血の味がする。最近は危ない仕事もなかったから、こんなに走ったのは久しぶりだ。

「…」

「…」

路地裏に二人並んで座り込んで、沈黙と荒い息遣いだけを繰り返していた。

もう逃げられないようにと左手首をがっちりと掴んでおく。気づいているのかいないのか、俯いて肩で息をする土方くんからは何の反応もなかった。

なんからしくない。らしくないよね。俺の困惑は深まるばかりだ。

「…なぁ、なんかあった?」

なるべく優しい声を出して聞いてみたけど、相変わらずの無反応。呼吸は大分落ち着いたみたいだけど、顔は俯いたままで、黒髪に隠れて表情がわからない。

「頼むからなんか言ってよ土方くん」

「…」

お馴染みの沈黙…のあと、小さく聞こえてきた言葉が、

「もうテメーとは別れる」

だった。その言葉を理解するのに時間がかかった。そしてやっとのことで意味を飲み込んだ後、呆然とした。頭突きよりも効いた。これこそ進化した人間の攻撃だよね、どちらも頭を使うことには変わりないけど。

「…」

今度は俺が黙り込む番だった。ほとんど活動を停止した脳みそを、なんとか再始動させようと焦る。
別れるなんて絶対やだ、それだけははっきりしているのに、この場をなんとかする方法が少しも浮かんでこない。ただ、土方くんの手首を掴む力を強めただけだ。

別れるもんか、決して離すもんか。

ひどく自己中心的な考えが頭の中をぐるぐると巡る。気の利いた言葉が何1つ出てこない。土方くんもまた沈黙の中に戻っていってしまった。

「…………好きだよ」
「嘘だ」

そしてやっとのことで搾り出した言葉は、瞬殺された。
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