□夜半珍事、再び
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真撰組の力を総動員してあたった攘夷浪士の一斉討伐が漸く終結した。漸くと言ってもそれは思いがけず簡単に呆気なく、むしろガッカリしてしまうくらい小規模の戦に終始した。後片付けを含めてもあまりに早く仕事がなくなってしまったのだ。
仕事よりミントンをする方が好きな山崎ですら、今回の展開にはなにか物足りなさを感じたほどだった。

集結していた浪士たちの大半を取り締まれたのだから、表面上は真撰組の勝利に終わったのだといえる。しかし事前に集めた情報に対し、半分以下の浪士しか江戸にやって来ていなかった。
だから全力を出したところで当然、望まれていた半分以下の成果しか残すことが出来なかったのだ。

そのことで山崎はこっぴどく叱られることとなった。しかも副長や局長にではなく、警察庁長官のとっつァん直々にである。
「オメーのせいでオジさんのボーナス減らされちまったよォ〜…どうしてくれんだァ?」から始まる愚痴と銃の乱射の中、山崎は結局出番のなかった戦の後で初めて死の危険を感じたのだった。

それから休む間もなく浪士たちが集まらなかった理由を探ることになったのだが、何日にも渡る潜入調査の末に掴んだ真相は「西から来る予定だった浪士組がテロ成功の前祝いにと食べた蟹が腐りかけで、みんなしてそれにやられた」というなんとも気の抜けるものだった。
それを聞かされた時には、普段あまり怒らない山崎もさすがに逆上しそうになった。

そんな諸々の生命の危険や嘘だと言ってもらいたい真実を越えて、やっと山崎の元に束の間の平穏がやってきたのだ。

既に他の隊士たちは休暇を取り終わっていた為、山崎は朝から一人でミントンを片手に公園へと出掛けた。屯所の庭では「遊んでんじゃねェ!」と副長に怒られるが、ここでなら誰に気兼ねする必要もない。
カップルや家族連れを見ると虚しさに襲われるが、幸い一心不乱にラケットを振っていれば周りなど目に入らない性質だった。





今夜は久しぶりに土方さんに会えるかな。
一通りラケットを振り終わり芝生に座って水を飲みながら、山崎はぼんやりとあの夜のことを思い出していた。

あれから仕事のことで部屋を訪れることはあったが、もちろんそんな時の土方はいつもの仮面を外す様子もなく、しかも予定通りに進まない討伐に苛立っていてとても気楽に話の出来る雰囲気ではなかった。

先頭に立って指揮を取る鬼を見て、あの夜自分が見たのは幻だったのかと疑うこともしばしばだった。しかし自分が触れた土方の涙や髪や身体の温もりは、そして彼が初めて語ってくれた胸の内は確かに山崎の記憶にこびりついていたのだ。

「今回の事が全て終わったら…また一緒に寝転がりましょうね」
「あァ、そうだな」
そんな会話をしたこともしっかり覚えていた。しかし土方も同様に覚えていてくれているだろうか、そして本気で取り合ってくれたのだろうかと少し不安に思う。

あの夜二人は疲労困憊で、山崎は緊張と興奮のために眠気も吹っ飛んでいたが、土方の方はもしかしたら朦朧とした意識の中で山崎の言葉を聞いていたかもしれないのだ。大した約束だとは思わずに忙殺される日々の中で忘れてしまったかもしれない。

生真面目な彼のことだからきっと大丈夫だ、などとも思うが自分は一体彼の何を知っているというのだろうか。
傍にいてわかっているつもりでいて、けれど何もわかっちゃいなかったことはあの夜に証明された。

これから時間をかけて知っていけばいいと希望を持っていたが、土方が再び自分の前で素顔をさらけ出してくれる保証などないのだ。ただでさえ今回の件で迷惑をかけたのだから、全ては山崎の夢で終わってしまうかもしれない。

けれど、そんなことには到底耐えられそうもなかった。ずっと自身の胸の内だけで想いを重ねていた土方に、やっと近づけたのだ。彼を守ろうと決めたのだ。

山崎は立ち上がりラケットで着流しに付いた芝を払うと、公園の出口に向けて歩き出した。

こんなところでぐだぐだ悩んでいても仕方がない。なにか部屋を訪ねる理由でも探そうと、商店街へ向かった。
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