□さわりたい
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そんな経緯で手に入れた夢枕君を、俺は帰ってから酔った勢いでイチゴ牛乳と共に流し込み、眠りに落ちた。

そして今、念願叶って愛しい土方の眠る屯所の上空まで来ている。ヤバい、なんか緊張してきた。夜這いというかこそ泥というか、どっちも実体ないから無理だけど、そんな後ろめたいことをする前の気分だ。

落ち着こうと、半透明な手を半透明な胸にあてる。

臆する必要なんてない。俺は愛する土方に会いたいだけなんだから。イエス、プラトニックラブ。
一人首肯して、月光を透かしている拳を握った。

すっと息を吸い、はっと吐く。土方の部屋へと透明な体を下降させていく。







辿り着いた土方の部屋で、俺はすごい発見をした。

目を閉じているときの土方は、なんかもうめちゃくちゃ可愛いってこと。
そりゃいつも可愛いのはもちろんなんだけど、普段は視線が鋭いせいで威圧感に相殺されてしまう。だからこうして瞼が下りていた方が可愛さが発揮されるのだ。
顔全体にも余分な力が入っていないからか、いつもより柔らかそうだった。指を伸ばしてつつこうとしたけど、半透明な俺の人差し指らもちろんすり抜けてしまう。

仰向けに姿勢正しく寝ている土方の上で静止し、その寝顔を飽きることなく眺めていた。
夢を見ているのか、脳もまるごと休んでいるのか、薄く入り込む月明かりの下では判別出来ない。ただ、とにかく可愛いってことだけはよくわかる。
静かな呼吸も愛らしい。

いつも俺が先に寝て後に起きるから、こんな風にゆっくり眠っている土方を見るのは初めてだ。勿体ないことをしてきたもんだと思った。

「ひーじーかーたー」

そう口を開けてみるものの、幽体である俺の体は空気を震わせることが出来ない。

こうして寝顔をこころゆくまで見れるのは良いとしても、触れたり話したり出来ないのはやっぱり辛い。むしろ生殺しだ。
こんなんでデートの代わりになどなるものか。ヅラの奴、次会ったらぶん殴ってやる。

土方はもうすぐ叩き起こされることを知るわけもなく、俺の下で淡々と眠り続けている。
せめて添い寝でもしようと思って、掛け布団に入り込んだ。

触れられない指先で、ゆっくりと土方の輪郭をなぞる。唇や、鼻や、閉ざされた瞼にも、そっと。記憶の中の温もりを反芻しながら、何度も。

ふいに、土方が小さくみじろいだ。喉の奥で小さく唸りのような声を出して、眉をしかめる。
気付かれたかと僅かに期待したけれど、土方は目覚めることなく俺の側に寝返りを打った。

鼻と鼻の先が交わるほどの近さ。近すぎて土方の顔がよく見えない。少し後退をする。
土方がまた眉を寄せて、唇を少しだけ大きく開いた。

「よろ…ず、や…」

「え?」

一瞬、本当に目を覚ましたのかと思った。けれど口とは違い、土方の瞼は閉ざされたままだ。

寝言で、俺のことを…?俺の夢、見てるのか?

透明な顔がにやける。普段は横柄な態度で俺を呼ぶから、余計にこの可愛らしさには胸をうたれた。
土方ってば、夢にまで見るほど俺が好きってか。俺は幽体離脱するほどお前が好きだけどな。

ますます今日のデートがなくなるのが勿体なく思えた。
こんなに愛し合っちゃってる二人の会瀬を邪魔するなんて、一体誰に赦される?少なくとも俺は赦せそうにない。

真選組の管轄範囲にある大使館を思い浮かべる。日頃仕事を求めてうろうろしているだけあって、俺の脳内地図はなかなか性能が高い。幾つかの候補地が浮かぶ。
しかし仮に全て回れたところで、隠された爆弾を見つけ、その存在を知らせるのは至難の技だろう。

でも、ここでやらなきゃ男じゃない。

土方の寝顔を脳みそに焼きつけるようにしっかりと見つめる。
そして布団から抜け出した。夜明けまではもうそれほど時間はないだろう。急がないと。

行くぞ、シースルー俺。

どうかこの愛しい人の寝顔が今晩また見られるようにと祈って、俺は月の沈みかけた夜空へと飛び出して行った。






短編集BL
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