□線知らずの
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「…ごめん、悪いけど俺…っ、あれ?」

気持ちには応えられないとはっきり言うべく、坂田は意を決して振り返った。
その視界に、土方は入らなかった。
焦って部屋中に視線を走らせる。こんな中途半端な状態で帰られてはモヤモヤしてしょうがない。

しかし居場所はすぐにわかった。さっきまで開いていたベッド周りのカーテンがすっかり閉じられていたからだ。

人が煩悶している間に昼寝とはいい度胸だ。もう謝罪などするものか。ビシッと断ってやる。
足音荒く近づき、思いきりカーテンを引いた。

「………は?な?おま…ちょ、なに?」

坂田の声が裏返る。
朝整えたままの真白いベッドシーツの上では、半裸になった土方が坂田を見上げていた。

「せんせぇ」

加湿器を止めたままだからだろうか、やけに喉が渇いていた。唾液を飲み込むと、静かな部屋中にその音が響いたような気がした。

「…何してんだ…?」

「抱いてくれや」

「いや…お前それ会話になってねーから」

右手にカーテンを握ったまま硬直する坂田の目の前で、土方は音もなくベルトを外すとするりと足から制服を抜きさった。露わになった足には筋肉もすね毛もそれなりにあるのに、何故か女性のような柔らかさを想像させる。色が白いせいかもしれない。
幼い頃から運動を制限されてきて、日に焼けることもあまりなかったのだろう。時折校庭で体育の授業を受けている姿を見かけるが、準備運動だけ参加した後は大抵日陰に入って見学をしていることが多かった。

そんなことをぐるぐると考えながら、坂田は無意識に何度も生唾を飲み込んでいた。

「好きなんだよ」

土方は真っ直ぐな目で見上げてくる。下着だけを身に着けた華奢な体の周りには、脱ぎ捨てられた制服が散らばっていた。
緩慢に動く薄い胸が坂田の目を惹きつけて離さず、その透けそうに白い肌の下にある病んだ気管を想像せずにはいられなかった。
抱いたりなんかしたら発作が起きてしまうのではないだろうか、と抱くことを前提に心配してしまう自分に気付いて冷や汗が出た。

「くそ…もうどこからつっこんだらいいんだか…」

「なんだ、知らねーのか?ケツのあ」

「そういう意味じゃねェェェ!」

「知ってんなら話は早ェ」

膝立ちになった土方はシーツに皺を寄せながら、カーテンの端を握ったまま立ち尽くす坂田へと近付いてくる。

「いやいやいや、待て、話せばわかる」

「もう待てねェ」

縋るような濡れた瞳に捕らえられた坂田は、逃げることが出来なかった。身体全てが土方の放つ圧力に屈服してしまったようだった。
気道が細くなったのかひどく息苦しかった。これでは自分が発作を起こしてしまいそうだ。

土方の手が、坂田の白衣を握った。
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