□サヨナラこうのとり
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今日は十四郎くんが非番で半月ぶりにデートをする予定だった。なんか秋だし紅葉でも見に行こうかと言って、俺の家の前で待ち合わせをしていたのだ。

約束通りの11時に現れた十四郎くんは、いつもの黒の着流しに赤いマフラーを巻いていた。それが白い胸元によく映えていたものだから、多分紅葉なんかよりずっと美しい。
狩るならこっちがいいなァ、山で青姦とか良くね?などと朝から盛った俺はそのコントラストをじっと見つめた。

「悪ィ、ちょっと野暮用が出来たから付き合ってくれ」

「え?遠出デートは?紅葉は??あおか…」

胸元から顔を上げて期待外れの言葉に抗議をしたけれど、十八禁ワードはギリギリで頭の中に押し戻した。
十四郎くんは少し済まなさそうな顔をしているけれど、意思を曲げる気はなさそうだった。

「近藤さんからの頼まれごとだ。終わったらパフェ奢ってやるから、とりあえずデパート行くぞ」

そう言って十四郎くんはスクーターの後ろに跨って俺の腰に腕を回した。
近藤の頼みじゃ俺に勝ち目はない。青姦の夢は一先ず諦めて十四郎くんの頭にヘルメットを被せた。
デパートまではスクーターを走らせて20分程度だ。その用事とやらが何かはまだわからないが、さっさと終わらせてしまえれば山まで行けるかもしれない。
密着する十四郎くんの温もりを力にして、とりあえず黙ってすっ飛ばすことにした。





「で、何買うんだ?ゴリラ用品はさすがにデパートにも売ってねーと思うぞ」

「ゴリラ用品じゃなくてベビー用品だ。さっさと行くぞ」

「なに?あいつまさかお妙との間に既成事実作っちまったのか?スーパーゴリラベビーの誕生か?」

「んなわけねェだろーが。昨日とっつァんの親戚に子供が産まれたからその祝いだ。近藤さんは屯所から離れらんねーから俺が頼まれた」

「なるほどねェ…」

十四郎くんの後に付いてデパートの中を歩きながら、なんつうタイミングの悪さで誕生してくれたんだと名も知らぬ(まだ付いていないかもしれない)赤子を恨めしく思った。





「ラブラブターイム!」

エレベーターに乗ったら無人だったので、ドアが閉まってすぐに十四郎くんを抱き寄せた。

耳元で名前を呼び、そのまま舌を出して舐めあげると俺の腕の中で体がびくりと震える。
可愛い、たまらない。エレベーター故障して閉じ込められたらいいのに。

「馬鹿かテメー!」

顔面を掴まれて思いきり引き剥がされた。それと同時にチンと音が鳴ってドアが開く。ほんわかした雰囲気の売り場が眼前に現れた。

目を上げて階数表示を見ると、もう目的の6階だった。

平日とはいえこの階はそれなりに賑わっているようだった。
ベビー用品から子供服までが揃うフロア内を妊婦や小さい子供を連れた母親が楽しそうに買い物をしている。

エレベーター前で立ち竦む俺たちは、予想してはいたけれど完全に浮いていた。ここは若い男が二人で仲良く来るような場所じゃない。
理由があって来ているのだから恥ずかしがる必要など少しもないのだが、実際子供が出来てもおかしくないようなことをしているのでなんとなく後ろめたかった。

「…行くか」

「おう」

敵陣へ挑むような気持ちで、俺たちは一際ファンシーなベビー用品売り場へと向かった。





「なあ、これ可愛くね?」

「それ女用じゃねェか、男もん探せ」

「えー、すげェ可愛いのに…大体赤ん坊なんて男も女も大差ねーって」

「そういう問題じゃねェ」

店に足を踏み入れるまでは緊張していたものの、いざ商品を見ながら歩いていると小さい靴やら洋服やらが可愛くて、俺のテンションはだだ上がりした。
対して十四郎くんは難しい顔をして吟味している。真選組からのプレゼントといっても過言ではないから、最良のものを選びたいのだろう。
俺も十四郎くんの力になりたいから、真剣に男らしい感じのを探すことにした。

「何かお探しですか〜?」

やたら高い上に鼻にかかった聞き取り辛い声が聞こえた。店員の女がすり寄ってきたのだ。キツい香水の匂いがして、即追い払いたくなる。

俺は無視を決め込んだ。
けれど十四郎くんは「知合いの家に男の子が生まれたんでその祝いを」と素直に答えてしまった。
しかもそれが柔らかいオフ用スマイル付きだったものだからいけない。女のテンションは更に上がった。
ますます聞き取り辛い声で「それでしたら〜」と早口に説明を始める。
その高周波に頭が痛んだ。
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