□メゾン半刻
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どこかから大きな物音が聞こえた気がして目が覚めた。一つあくびをして、のろのろと体を起こす。

それに続くように乱暴に部屋のドアが開いて、転がるように高杉が入ってきた。

安い遮光カーテンから洩れ入ってくる朝の光が、高杉の姿をぼんやりと照らす。
早朝に帰ってくるのはこのところ珍しくなかったが、高杉の様子はなんだかおかしかった。
髪がぼさぼさだし、ジーパンのベルトは締まっていない。
志村が部屋を交換してきたと言っていたが何かあったのだろうか。坂田と喧嘩して追い出されたのかもしれない。

「どーかしたか?」

小声で話し掛けた俺に向かって高杉はよろよろと歩いてくる。
その短い道中で鞄を落とし服や携帯を落とし、最終的にはジーパンも脱ぎ捨ててくるという芸をやってのけた。そしてそのまま俺のベッドに入ってくる。

「土方ァ…」

「や、ヤらねーからな?」

甘えた声を出して抱き付いてきた高杉に釘をさす。
こんな朝っぱらからなんてありえない。大体上には志村が寝ているのだ。
こうして同じ布団に入っているだけでもヒヤヒヤする。目撃されたらもうこの寮には住んでいられないかもしれない。

「俺、もう起きるからゆっくり寝とけ」

大体、高杉だって疲れているのだからちゃんと休んだ方が良い。

久しぶりにランニングでもしてこようと決めて、起き上がろうとした。が、抱き締められた体は動かない。

「高杉?」

胸元に顔を埋める高杉から返事はなく、代わりに聞こえてきたのは微かな寝息だった。
起こさないようにして離れたいのだが、しっかりと抱き付かれてしまっているものだから身動きが取れない。
どうしたものか。

無理に引き剥がすのは可哀想だし、かといってこのまま高杉が起きるまで待っていれば志村に目撃される可能性もある。
けれどその志村も高杉と代わらぬ時間に帰ってきたのだから、目覚める時間に大差はないだろう。それならばこのまま二度寝しても大丈夫なはずだ。
俺もまだ寝足りないし。
無理やりそう結論付けて、縋るように抱きついて眠る高杉の頭を撫でた。いつも翻弄されがちな自分が優位に立てたような気がして嬉しくなる。

そしていつの間にか俺も眠りに落ちていった。

「あのバカ…」

夢うつつの中、上のベッドからそんな恨み節が聞こえた気がした。





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