話
□苺牛乳と不機嫌な彼と
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「あんた、土方のこと好きなんだろィ?」
その瞬間、飲んでいた苺牛乳が気管に入った。
「な、んだよ…いぎなりっ…!」
「いや、なんとなく」
むせかえる俺を心配する素振りもなく、沖田は頬杖をついてつまらなさそうにどこか遠くを見ていた。
隣の教室からは数学の授業をする声が聞こえてくる。対してこの教室はとても静かだ。
うちのクラスメイトは音楽室で合唱の練習をしているはずで、もちろんいま図星をさされた俺の想い人もその中にいる。
真面目なあいつのことだから、きっと一生懸命歌っているのだろう、とその姿を想像するだけで胸が震えた。
バスとテノールで立ち位置が離れているせいで実際に目にしたことはない。もし隣で歌えるんならこうしてサボったりはしなかったにちがいない。
「なんでわかった?」
落ち着いた気管におそるおそる空気を送り込んで声を出す。
誰にもバレないように気を配ってたつもりなんだけど。
「だからなんとなくだっつってんでしょ」
「…そ、そっか」
照れ隠しに笑顔を浮かべてみたけど、沖田は相変わらずこちらを向いてないから意味がなかった。
そんな一人芝居の恥ずかしさに耐えるために腕に力を入れたら、握っていた紙パックから苺牛乳が飛んだ。
沖田の横顔に向かって。
「…わ、悪ィ」
学ランの袖で汚れた頬を拭こうとしたら、凶悪フェイスになった沖田に手を払われた。
行き場をなくした俺の左手はぷらぷらと中途半端な位置で揺れて、落ちた。
沖田は自分で頬を拭って、結局俺の方を一度も見ることなく目を閉じた。
少し中味の減ってしまった苺牛乳のパックは俺の手の形に合わせてへこんでいたけれどそんなことはどうでもよくて、俺は文句も言わずただ不機嫌そうにしている沖田が怖かった。
終
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