□屋上メロドラマ
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「なァチャイナ」

「その呼び方やめろって言ったアル」

神楽の言葉に沖田は肩をすくめる。

「名前で呼ぶとアンタ怒るじゃねェか」

「話し掛けんなってことネ」

沖田の顔を見もせずに、神楽は冷めた声で言い放つ。わざとらしく溜め息をついて、沖田は神楽の横顔を見つめた。
日傘の下の白い顔の上で、両の目がじっと空を睨み、赤い唇は横に引き結ばれている。

強い意志を感じさせるまだ幼いその顔は、沖田に加虐心と庇護欲をもたらすのだ。
その相反する欲望が、この少女から離れられない理由だった。

「困ったもんでィ」

「困ってんのはこっちアル。ストーカー野郎が」

「容赦ねェなァ」

いつものことながら歯に衣を着せぬ神楽の物言いに、沖田は思わず笑ってしまう。
一体どこまで自分を嫌っているのやら。
何を言われても傷つかないどころか楽しんでいる自分は、案外マゾの素質があるのかもしれない。

「そんなに俺が嫌いか?」

「大っ嫌いアル」

思いきり背をそむけられ、沖田はまたもや苦笑をもらす。

でもそんなこと言いながらいつも此処に来るよなァ。
その言葉は心中で呟くだけにして、沖田はそっと神楽の纏められた髪に触れた。

「お前もうちょい良いシャンプー使った方がいいぜィ?」

「黙れ変態」







短編集NL

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