話
□僕たちの哀しい別離
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「山崎いつまで泣いてんでィ」
「自分だって泣いてんじゃないですか」
「俺のは心の汗だから問題ねェ」
「同じでしょうよ」
「どうでもいいが二人とも鼻水拭きやがれ。見苦しーんだよ」
「あんたは血も涙もねェ鬼ですかィ?」
「あ、ティッシュ切れてる…。持ってます?」
「…んなもんなくても袖で足りらァ」
結局俺たちは土方さんにティッシュを貰い、盛大な音をたてて鼻をかんだ。涙はなんとか止まってくれた。
俺は鼻水にまみれたティッシュをぐしゃぐしゃに丸めてショルダーバッグにつっこんだ。
沖田さんは土方さんに投げつけて怒られている。
道路に落ちた白い塊はそのままに、俺たちはのろのろと進んでいく。
気を抜くと涙はまだいくらでも流れてきそうだった。
横の二人はいつの間にか殴り合いのようなものを始めていた。すっかり見慣れた光景だ。
けれど、いつもおおらかな笑顔で止めに入っていたあの人は、もういないのだ。
「永遠の別れじゃねーだろーが」
沖田さんの拳を片手で止めて、土方さんは静かにそう言った。
「冷たいあんたにはわかんねーや」
沖田さんは足を止めて、そう呟いて俯いた。
土方さんは少しだけ足を速めて進んで行ってしまう。
俺はどちらに付くともなく、その間をゆっくりと歩いた。
沖田さんもすぐに追いついてきて、八つ当たりなのか俺のわき腹を軽く殴った。
前を行く土方さんの背中は、あの人のものより一周りも二周りも小さく見える。
あの人と離れることになって誰よりも辛いのは、本当はこの人のはずだ。
その苦しみを見せないのは、この人らしい優しさであって不器用さだと思った。
きっと沖田さんだってそれはわかっているはずで、だからこそ余計に一人で澄ました顔をしている土方さんに腹が立つのだろう。
「電車で二時間なんて…あっという間じゃねーか」
なんて硬い声。きっと、この人は今自分に言い聞かせている。
「…そうですね」
本当は寂しいくせにと言おうとしたけれど、止めておいた。
沖田さんがまた俺の脇腹を小突いた。
「俺、今日用事あっから…じゃーな」
もう暫く同じ道を行くはずの土方さんが唐突に、早口に別れを告げた。
そして俺たちの方を振り向くことなく、返事も待たずに早足で角を曲がって行ってしまう。
「あいつが…一番弱虫でィ…」
「そう、ですね…」
痛々しいほどの強がりが、そうさせてしまう自分たちが、不甲斐なくて哀しくて心細くて、結局俺たちはまた泣き出してしまった。
そして泣きながら、その涙を何度も袖で拭いながら、いつも四人で通った道を二人で歩いて帰って行った。
終
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