□深みに嵌る
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規則正しい寝息と共に揺れる銀髪を、潤んだ目で睨みつける。

本当に、何故こんなことになってしまったのか。

昨夜は近藤さんと酒を呑んだ。ほろ酔いで店を出て歩いていたところに、同じように酒の入ったこいつと出くわした。
お決まりの口喧嘩があり、その流れで取っ組み合いになった。そこまではいい。

何故か最後に「こうなりゃ飲み比べだ」とかなんとかいう話になって、二人で二軒目に行ったのだ。
近藤さんはキャバクラに寄ると行って、そこで別れた。引き止めてくれりゃ良かったのに、と勝手な恨み言を思う。

そのあとはこいつがよく行くという居酒屋に入り、えいひれかなんかをつまみながら酒を呑んだ。
何を話していたのか、どれだけ呑んだのか、そんな詳細な記憶はすっかり忘却の彼方だ。

けれど始めこそ互いに喧嘩腰だったものの、すぐに打ち解けあったことは記憶にある。似た者同士だからか、馴れ合ってしまうとひどく居心地が良かった。

…だからといってホテルまで来る意味はわからないが。

溜息を一つ。
煙草を求めて視線を彷徨わせる。床に着物やら下着やらが散乱していて一層頭が痛んだ。
サイドテーブルにあった煙草とライターに手を伸ばす。
上半身を起こして、壁に背中を預けた。なかなか起きない男を横目で見やる。

好意など、なかったはず。少なくとも一緒に酒を呑むまでは。
こいつはいつだって面倒で腹のたつ存在でしかなかった。

否、それは嘘だ。
戦いの腕には一目置いていたし、何度も助けられたことだってある。

本当は、反発しながらも憧れていた。
自分と似ているくせにどこか一枚上手で余裕のあるこの男。追いついて、追い抜いてやりたいと、ずっと思っていた。そしてこれまでの借りを返そうと。

しかしそんな気持ちとホテルがどう繋がるというのか。

解けない謎と煙草の不味さに顔をしかめた。
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