□夏と口実
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スマートフォンの画面を指先で徒に撫で続けている。
CMでやっているようにこいつが人間だったら、まぁ文句の一つや二つは言ってくるだろう。あるいは泣き出すかもしれない。
それくらい生産性のない行為だ。ただ電話帳を開き、一つの名前を探し、電話番号に触れ、またホーム画面に戻る。その繰返し。

我ながら情けないとは思っている。時計表示は刻々と変化して俺を責めているし、ずっとベッドにうつ伏せているから首も痛い。こんなこと、さっさと終わりにしたいのに。

心臓がガラスで出来ているからこんな状態になるのだ。これはもう作り手のミスで、だとすれば俺は被害者のはず。補償くらいしてもらいたいものだ。たとえば、向こうから電話をするように仕向けるとか。

あぁ、そんなことを考えるのももう何度目だろうか。

仰向けに寝返りをうって、電池残料も少なくなってきたスマフォを胸に乗せる。
目も疲れた。閉じて眉間を指先でほぐす。

なにも難しいことじゃない。宿題でわからないところがあって、あいつは家も近いし、俺より少しだけ英語の成績が良いから教えてもらおうって、そんな自然な理由なのだ。さらっと電話してさらっとそう言えばいい。

なのに何故、動かない俺の手。

夏休みだ。こうでもしないと会えないのに。そして仲を深めるチャンスだってのに。

しっかりしろ俺!

腹筋に力を入れて上半身を起き上がらせると、スマフォは胸から滑り落ちて布団の上におさまった。液晶には無情な時の流れが相変わらず表示されている。

あと12分経ったらキリが良い時間になる。
その時間になったら電話をしよう、もうここでキメるしかない。俺も男だ。今度こそ、やる!

ベッドの上に正座をして、運命の時を待った。
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