□どうやらぼくらは
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「警察のくせにサボりなんて、図々しい野郎アル」

「…うるせェや」

夕方の公園、俺はベンチに寝転がって居眠りの姿勢をとっていた。

そう広くない敷地内には、この10分ほど自分以外誰もいなかった。さっきまでは子供の声が騒がしかったのだが、17時のチャイムと共に大人しく散っていった。あとは生き残りのセミが時折鳴くだけで、静かなものだった。

その静寂を一人の声が破ったのだ。聞き覚えのある少女の声だった。巨大生物が息を吐く音も聞こえている。アイマスクを取らずとも容易に状況はわかった。
おおかた夕方の散歩にでも出て、この公園を通りかかったのだろう。ここは万事屋からも近い。そこに自分が目に付きやすい隊服姿で寝転んでいたわけだ。

「人の話は目を見て聞くものアル」

無理矢理にアイマスクを外された。眉を寄せ、目を瞬かせる。前髪をかきあげて、溜め息をついた。

「強引な奴だねィ」

久しぶりに見た空は、僅かに夕暮れがかっていた。日の暮れるのも早くなったもんだ。

渋々起き上がって、普通に腰掛ける体勢になる。少し背中が痛い。こんなところで一時間近く寝ていたんだから当然か。

チャイナは片手に巨大犬の手綱を持ち、もう片手では折り畳んだ日傘の先で俺のアイマスクを引っかけて回していた。
少しだけ上方から、見下ろされている。それが気にくわなかった。

「それ、返しな」

「嫌アル。私の戦利品ネ」

勝ち誇ったような顔でチャイナは言った。一層日傘を高く上げて、アイマスクをくるくると回し続ける。

「定春、遊んでおいで」

チャイナが右手の手綱を離すと、巨大犬は待ってましたとばかりに駆けて行った。あの犬が走り回ると、広くはない公園がますます狭く見える。

「いいのかィ?ボディーガード離しちまって」

「お前なんて私一人で充分アル」

いつものことながら人を舐めたことを言う娘だ。

「なら、試してみるか?」

言うが速いか素早く腕を伸ばす。チャイナの空いた白い手を、掴んで引いた。
怪力なくせにバカに軽い体が前によろめく。不思議と抵抗する気配は見られなかった。

俺は立ち上がって、更に引っ張った。
アイマスクが地面に落ちる音が微かに聞こえた。

今に蹴りでもとんでくるかと思ったが、やはり攻撃をしてくる様子はない。
一体なにを企んでいるのやら。まぁ、なんでもいいか。

拒む気がないのなら、好きなようにさせてもらうだけだ。

勢いで限界まで引き寄せて、思いきり抱き締めた。

さて、どう出るか。
ここまですれば、いい加減頭突きなり投げ技なり喰らわしてくるに違いない。そうしたらお決まりの戦闘だろう。

一秒、二秒、三秒。攻撃開始を待つ。時を数えるよりも速いスピードで心臓は鼓動している。
けれど幾ら秒数を刻んでみても、チャイナは何もしないし何も言わなかった。

「…張り合いがねェや…」

細い体を抱き締めたまま、小さい頭に額を乗せた。シャンプーと頭皮と、微かな汗の匂いがした。

「…お前なんて、倒すまでもないアル。不戦勝ネ」

「口の減らねェ女だねィ」

それでこそ、寝たふりして待ってた甲斐があるってもんだ。






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