□SEPTEMBER RAIN
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残暑が厳しいとは言え、夜更けともなれば吹く風も大分涼しい季節だ。隠密行動に最適なのもこの頃で、最近はどの任務も調子良くこなしている。
もちろんピザの配達も然りで、今も馴染みの家に最短記録でシーフードピザを届けてきたところだった。
良い仕事をした後は気分が良い。

曇天の下、のんびりと家々の屋根を移動してゆく。もうすぐあがりの時間だ。このペースで店に戻れば綺麗に定時で帰れるだろう。逆に、うっかり早く着けば新しい仕事を頼まれかねない。
いくら調子が良いとはいえ、残業は避けたいのだ。忍たるもの、時間には正確でなければならない。

実際は早くジャンプを読みたいだけだが。

風が急に強く吹き始めた。執拗に目元を隠す前髪すら巻き上がりそうだ。嫌な予感がした。こういう風が吹いた後は、雨が降ると相場が決まっている。

傘は持ってきていなかった。少しでもタイムをあげるため、荷物は携帯しか持たずに出たのだ。あとはすべて店に置いてある。

少し足を速めた。9月の雨に打たれるのは避けたい。忍者は体が資本。特にフリーで働く身の上であるなら尚更だ。ほんの少しの不調がミスに繋がりかねないし、そうなれば死ぬ確率が跳ね上がる。雨に濡れて風邪をひくなんて絶対に御免だった。

しかし健闘虚しく、一分も経たないうちに突然の大雨が家々の屋根を襲い始めた。もちろんその上の自分が無事で済むわけもなく、全身が瞬く間に濡れそぼっていく。

足下も滑りやすくなってしまった。この状況で急いで走って、落ちたら元も子もない。

定時で帰るのは諦めて、適当な軒下で雨宿りをしていくことにした。

「あ、すんません」

「…」

滑り込むようにして入った軒下には、先客がいた。
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