話
□にゃんにゃんはおあずけで
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某ゲームに登場するお供猫のクッションを抱え、坂田は俺のベッドに寝転んでいる。
テレビでは再放送のバラエティ番組が流れていた。坂田は時おり出演者の発言に突っ込みを入れ、一人で笑っている。正直不気味だった。端から見れば狂人だ。
急に発せられる声に驚いたり腹をたてたり呆れたりしながら、それでも俺はこの変人を居ないものとしていた。
一度構えばキリがないのだ、こいつは。付き合っている暇など今の俺にはない。
「いやいや、普通気付くだろそこ!」
誰にも届かない突っ込みは、発した本人の笑い声だけを残して霧散していった。むなしくないんだろうか。なんだか楽しそうなのが理解できない。
俺は無視の態度を崩さず、パソコンに文章を打ち込み続けていた。
「なぁ土方」
「おーい土方」
「無視は辛いよ土方」
かたかたかたとキーボードを打つ手を止めない俺に、坂田はしつこく声をかけてくる。
無視だ、無視。俺はさっさとこの作業を終わらせなくてはならないんだ。構ってる余裕などない。
「それでも愛してるよ土方」
やたら低く甘ったるい声を耳元で放たれ、俺の動きは止まった。小難しい言葉で満たされていた俺の頭の中は、一瞬のうちに坂田の声に侵略されてしまった。
思いきり頭を振り、両耳を力任せに擦った。構ってる暇はない、集中だ。
再開させようと試みたが、どうしても句点を打った先が続かなかった。繋がっていたはずの文章は綺麗に略奪された後のようだった。
ちくしょう、俺の思考を返せ。
振り向いて睨み付けると、坂田は満面の笑みを浮かべた。変態かこいつ。腹立ちまぎれに猫を奪い去っても、変わらず満足そうだ。
「俺にはお前がいればいいんだもーん」
「…馬鹿か」
お供猫を顔面目掛けて投げつけ、俺はまたパソコンの画面へと向かった。
俺だって本当はお前さえいりゃいいけど…。
しかし課題は終わらせないといけない。
「もうちょっとだから、待ってろ」
消えた言葉の続きを適当にでっちあげながら、俺はキーを押すスピードを速めた。
終
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