話2
□こんな朝ならいらなかった
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夢を見ていた。
南極にいる夢。
晴れ渡った空の下には一面の氷。
広大な景色の中には俺以外誰もいない。
どうやら俺は一人ぼっちで、この凍てついた広野に放り出されたらしいのだ。
しかもパン一で。
天気はいいものの、ここは氷上だ。寒いなんてもんじゃない。
両手で自分の体をがっつり抱き締めた。でももちろんそんなんじゃ足りなくて、どっかに暖まれる場所はないかときょろきょろ探す。
しかしそんな都合の良い場所は何処にも見当たらなかった。空と氷の間にあるのは俺の可哀想な裸体だけだ。
このままでは死んでしまう。
俺はパン一で青空を見上げ、途方にくれた。
目覚めると、俺の下にあるのは氷ではなくフローリングで、上にあるのは見慣れた天井だった。
南極にいたのが夢だったとわかり安心する。
しかし、パンツ一丁で寒さに震えているのは現実だった。
これはおかしい。
俺はいつもパジャマを着て寝ているし、本来なら起きた時にはベッドの上にいるはずだ。
時々寝言を言う癖はあるらしいが、決して寝相は悪い方ではない。それが何故にパン一で床に転がっているのか。
昨日は酔っ払っていたわけでもないし、たしかいつも通り眠りについたはず。
起き上がると、固い床で寝ていたせいか肩や腰が痛んだ。揉みほぐしながら何気なくベッドを見やる。
「あれ…?」
見慣れたベッドには、見慣れたパジャマを着た、見慣れぬ男が眠っていた。
こんな奴知らない。昨夜連れ込んだという記憶もない。
不法侵入者。そんな言葉が思い浮かんだ。続いてこそ泥というフレーズも登場する。
慌てて貴重品を確認しようとしたが、うちには金目のものなんて一つもないことに気付いた。
給料日直前だから、財布には千円も入っていない。この男もさぞかしがっかりしたことだろう。それでふて寝したくなったのかもしれない。
しかし人のパジャマを着て人のベッドで寝るとは、どんだけ神経が太いんだろうか。
男は相変わらず、死んだように白い顔をして静かに横たわっていた。寝息も聞こえない。まさか本当に死体なんじゃないかと、恐る恐る近付いて顔を覗きこむ。
「よう」
「おわっ!」
男が急に目を開いたので仰天し、思わず大声をあげて後ずさった。