話2


□こんな朝ならいらなかった
2ページ/4ページ


「俺は悪魔だ」

「…たしかに人のパジャマ剥いでベッドから蹴落とす人間は悪魔のようだと言われたりもするけど」

「人間じゃねーよ、物分かりの悪い奴だな」

人様のベッドにあぐらをかき、男は苛立ちを隠さぬ口調で言った。不法侵入についての謝罪や釈明は何もない。それどころか、開き直っているのかやたらと態度がでかかった。

俺はベッドから大股で数歩分の距離を置いた。狭い部屋だからすぐに壁にぶち当たる。

こいつ危ない。つーか寒い。夢の中の南極以上に発言が寒い。

きっと今流行りの電波さんというやつなのだろう。ご丁寧なことに、背中には黒い羽根までつけている。パジャマに羽根ってどんなコーディネートだ。折角顔が良いのに勿体無い。

「つーかもう悪魔でもなんでもいいからよ、帰ってくんね?今なら警察には通報しねーから」

「人間如きが俺様に命令すんじゃねーよ」

駄目だ、話が通じない。これもうヒャクトーバンしかない。携帯は、あ、枕元だ。

そろそろと近づいて携帯に手を伸ばすと、その腕を捕まれた。しかも結構な力で。
男の手はひやりと冷たく、綺麗に伸ばされた爪には黒いマニュキアまで塗られている。この徹底振りはもはや見事と言うしかない。

しかし見事だろうがなんだろうが、迷惑なもんは迷惑だ。

「お前、警察とやらを呼ぶ気なんだろ」

「呼びませんから、離して下さい悪魔様」

俺だって本当は警察とか面倒なことは避けたいのだ。ともかく穏便に、かつさっさとお帰りいただこうと、謙虚な姿勢でそう申し出てみた。
しかし男は首を横に振り、俺の腕を離そうとしない。

「なら、俺と契約しろ」

「…え?」

もしかして電話会社かなんかの新手の勧誘?固定電話とか勧められちゃう系?いや、それよりは宗教系の方が可能性は高いか。なんにせよ不法侵入されてるわけだし、やっぱ警察を呼ぼう。
その為にはまずこの手を離してもらわないといけない。なんか末端が痺れてきたし。

「つーか説明してくれません?じゃねェと俺も簡単に契約とかできねーし」

「仕方ねーな」

「あと、腕死んじゃいそうなんで離してください」

男は渋々と言った様子で腕を離した。しめたと思った瞬間、携帯を目にも止まらぬ動きで掠め取られた。

「あの…俺の…」

「契約が終わるまでは預かっておく」

お巡りさーん!助けてー!

そんな心からの叫びの代わりに出たのは、盛大なくしゃみだった。
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ