話2
□君が、笑う、まで
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「今日もすっぺェや」
酢昆布を食べた後の私にキスをして、そーごはわざとらしく顔を歪める。
だから私はちょっと怒ったふりをして、力の加減をしながらそーごの頭を叩くのだ。
そして顔を見合わせて笑う。
そういえば、私たちのキスはいつもこんな風に冗談半分だった。
「なんで、起きないアルか、そーご」
ずっと、眠ったままで、もう何日経ったんだろう。
何度も何度も呼び掛けているのに、そーごはちっとも気付いてくれない。
本当は張り手くらいしてやりたいけど、何か変な管やらなんやらがついているから怖くて出来ない。
口を覆う機械が邪魔で、キスすら出来なかった。
なんでこんなもんつけてるの?早く外せよバカそーご。
閉じられた瞼の白さが、私の寂しい気持ちを膨れ上がらせる。
長い睫毛にそっと指先で触れてみる。それでもそーごは目を覚ましてくれない。
いつもいつも意地悪ばっかりだけど、今回のは度が過ぎている。
こんなに寂しくさせるなんて、ひどい。
起きて謝ったって、絶対すぐには許してやらないんだから。
…でも、もし今すぐ起き上がってキスしてくれたら、今回だけは笑って頭を撫でてあげてもいい。
「そーご、そーごってば…」
ねぇ、あと十秒だけ待ってあげるから。
「神楽、時間だ。帰んぞ」
もう十秒だけ…
「神楽ちゃん…」
本当に、本当に最後の十秒だよ…?
「なんで、なんでこんなに意地悪するアルか?」
いつの間にか涙が溢れて、そーごの頬や瞼にも雫が落ちた。
彼女がこんなに近くで泣いてるのに、そーごは知らんぷりで寝たふりを続けている。
ひどい。こんなのあんまりだ。この間まではちゃんと、私の言葉全てに応えてくれていたのに。
「私のこと…嫌いになったアルか…?それならちゃんと起きて、はっきり言えヨ。こんなの…こんなの男らしくないネ…」
「おい、神楽」
「ねぇ、そーごってば!」
喉が焼けてしまいそうな大声を出しても、そーごは起きなかった。