話2
□君が、笑う、まで
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「で、まだ許してくれねェのかィ?」
「………」
「無口な見舞い人でィ」
苦笑まざりのそーごの声はまだ弱々しくて、どうしても眠り続けていた時のことを思い出してしまう。
私は唇を横一文字に引き結んだまま、窓の外に視線をやった。
結局、そーごが目覚めたのはあれから一週間も経った日のことだった。しかも私じゃなくてゴリラが見舞っている時だ。
なんだかそれが悔しくて、私は暫くそーごとは口をきかないと決めていた。
それでも、離れたくなくてこうして毎日通ってきている。
昨日と一昨日はすぐに看護婦さんに追い出されてしまったけど、今日は大丈夫そうだった。
そーごの顔色は段々と良くなってきていたけれど、まだ絶対安静を言い渡されている。
今は見えないけれど、お腹は包帯でぐるぐる巻きなのを私は知っている。
本当に、あのまま死んでしまってもおかしくなかったのだ。
そう思うと、いまだに泣きそうになる。
「かーぐーらー」
「………」
呼ばれて、ちらりと目線だけで返事をして、また外を見る。小さい雲が浮かぶ空は、見事な秋晴れだ。
こんな日にデート出来ないなんて、勿体ない。…そーごのバカ。
明後日くらいまではまだ口きいてやらない。
「聞きてェなー、神楽の声ー」
ずっと私の声を無視して眠ってたくせに。
「寂しいと病気の治りも遅ェだろーなー」
私の方が何十倍も寂しい思いしたんだ、バカ。
「たった一言で元気になれる気がするんだけどねィ」
「…………バカ」
顔は反らしたまま、呟くようにぽつりと、そう返した。
「心配かけて、ごめんな」
「バカバカバカ…」
視界が歪んで、声が震える。涙が頬を伝った。
俯くと、病室の床に雫がぽたぽたと落ちた。
「神楽」
そーごの指先が、椅子に座る私の膝に少しだけ触れた。
「泣くんじゃねェやィ」
そう言われたって、勝手に出てくるものはしょーがない。起きてても眠っていても、気のきかない彼氏だ。
「…よっ、こいせっと」
「ちょっと!起きたら駄目アル!」
上半身を起こしたそーごを慌てて寝かせようとする。まだ絶対安静なのだ。動いたらどうなってしまうかわからない。
けれどそーごは傷なんてないような顔で、近付いた私にちゃっかりキスをした。
「今日はしょっぺぇや」
「…バカ」
肩を軽く叩くと、そーごがニヤリと笑った。
また泣いてしまいそうなのを堪えて、私も笑った。
終
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