話2


□真剣ソルジャー
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三限目。
頼まれていたノートをまたもや投げ出し、俺は授業開始前からサボりを決め込んでいる土方の元へ向かった。

わざと音をたてて引き戸を開ける。寝転んでいた土方は無言でちらりとこちらを見た。けれど起き上がりはしない。切れ長の目は再び天井へと向けられた。

そのすぐ横に行ってしゃがみこむ。覗きこんだ土方の顔は、やはりどこか余裕そうに俺を見返した。俺も同じような表情をつくる。逆転された形勢を、逆転するのだ。

「土方ァ、この間はやり過ぎた。責任取るから俺と付き合え」

一瞬、準備室の中を静寂が支配した。下にいる土方は、呆気に取られたような信じられない言葉を聞いたような、絶妙に微妙なしかめ面を作っている。

「…どうしてそうなるんだよ」

「それしかねェんだよ、解決策が」

準備室の中は、またもや静寂に支配された。少し離れた教室から声が聞こえてくる。

寝転がっていた土方が起き上がり、傍らに座っていた俺に向き直った。真剣な顔だ。承諾するだろうか。こちらこそよろしくお願いしますと、三つ指ついて言ったりしないだろうか。

「わけわかんねェ。断る」

まぁ、そうなるよな。予想の範囲内だ。あんまりはっきり言われたから少し傷ついたが、俺も引き下がるわけにはいかない。いつまでも優位を明け渡していては男が廃る。

「いいじゃねェか。何の問題がある?」

「下らなすぎて問題にもならねェよ」

「俺の愛が下らねェと?」

「お前のは愛じゃねェだろ」

食い下がる俺を睨みつけ、うんざりしたように土方は言った。頑なな野郎だ。まぁそんなとこが気に入ったわけだが。長所と短所は紙一重だ。

「最近、お前のことしか考えられねェ。…これが愛以外の何だ?」

「病院で脳みそ治してもらえ。多分新手の病気だ」

「新手じゃねェよ。これが病気だとすれば、古より伝わる恋の病ってやつだ」

「ざけんな。お前の嘘にはもう騙されねェ」

いくら恥を捨てて真実を重ねても、土方はなかなか信じようとしなかった。むしろ段々と苛立ってきているように見える。

そんなに俺は信用ならないのだろうか。今までの軽率な行いを少し後悔するも時既に遅しだ。狼少年ってやつはおそらくこんな気持ちだったんだろう。そんなもんに共感したところで救いはないが。

「嘘じゃねェ」

「嘘だ」

「何でだよ」

「今まで散々玩ばれてきたんだ、今さら信用出来るか」

土方は吐き捨てるように言って立ち上がった。俺の制止も聞かず、ドアへと向かう。

ちくしょう。

思い通りにならないもどかしさと苛立ちが、脳内を侵しだす。もともと俺は気の長い人間ではない。好きに遊べない玩具なら、壊してやろうか。そんな衝動すら湧いてきた。どうにもよろしくない。俺はそんなことを望んでいるわけじゃないのだ。

こうなれば、最後の手段を使うしかない。

「待ってくれ」

「んだよ」

ドアを半分開けて、土方が振り返った。
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